1−7 勝手な言い分

 この日の夕食は結局、ケイトが用意したシチューとパンになった。


「全く、大げさに包帯なんか巻いて帰ってきて。それは私に対する当てつけかしら?」


アンはシチューを口にしながら、ニックをおんぶしているジェニファーを睨みつけた。


「違います。ケイトおばさんが手当してくれたんです。それよりも叔母様、私に届いた手紙を返して下さい!」


何としてもジェニファーは手紙を返して欲しくて懇願した。


「駄目よ。あなたの保護者は私なのよ。だからあなたの持ち物は全て私が管理するわ」


「手紙だと? ジェニファーに手紙が届いたのか?」


2人の会話を聞いた叔父のザックがアンに尋ねた。


「ええ、そうよ。私が預かっているわ」


「私はまだ、手紙も読んでいません!」


「え? お姉ちゃん、お母さんに手紙を取られたのか?」


その話にダンが驚いて目を見張る。


「ええ、そうなの」


「ジェニファー! 余計なことを言うんじゃないの!」


アンが目を吊り上げると、ザックが止めた。


「よさないか! それより手紙を俺にも見せろ。一体誰から届いたのだ?」


「あ、あなたには関係無いことでしょう? これはジェニファーと血の繋がりがある私との問題なのだから」


こんな時にだけ、血の繋がりを持ち出すアン。


「妙に怪しいな……ひょっとすると手紙にはお前にとってフリなことが書かれているんじゃないか? だから手紙を取り上げたのだろう?」


「そんなこと……あなたには関係ないでしょう!?」


「いいや、関係あるな。俺はこの家の主だ。誰がお前たちを養ってやっていると思っている? 早く手紙を見せるんだ!」


「いやよ!!」


あろうことか、夫婦はジェニファーの眼の前で手紙の取り合いを始めた。

その様子を呆然と見つめるジェニファー。


(そんな……手紙は私宛なのに、何故叔母様と叔父様が取り合っているの……?)


「フギャアアアアアッ!」


この騒ぎのせいで、ジェニファーの背中でニックが泣き出してしまった。


「ああっ! ごめんね、ニック。よしよし、いい子ね……」


慌てて立ち上がると、ジェニファーはニックをあやし始めた。


「2人とも、やめろよ! ニックが泣いてるだろう!」


「そうだよ! やめてよ!」


ダンとサーシャが両親の喧嘩を止めに入るも、2人は聞く耳を持たない。


「アンッ! 手紙を出せ! もし返事を出さなければならない手紙だったらどうする! 先方から怪しまれるだろう!」


「そ、それは……」


「やはり、返事がいる手紙だったのだな? さぁ! 早く俺にも手紙を見せろ!」


ザックの言葉に、ついにアンは観念したのかポケットから手紙を取り出した。


「……これよ。差出人は……セオドア・フォルクマン伯爵となっているわ」


「伯爵だと? そんなすごい人物とジェニファーは知り合いだったのか!?」


手紙を受け取ったザックはジェニファーを一瞬チラリとみると、手紙を読み始めた。


「……何? ジェニファーをフォルクマン家に寄越してほしいだと? アンッ!! 何故、そんな重要な手紙を隠そうとしたのだ!」


妻に激怒するザック。

この話に驚いたのはジェニファーだった。何故、自分が伯爵家に呼ばれているのか理解できなかったからだ。


「……」


アンは、ザックの質問に唇を固く閉じる。


「答えろ! アンッ!」


するとアンはついに観念したのだろう。


「ジェニファーがここからいなくなったら、誰がこの家の家事をするって言うのよ! 私が家事をしなければならなくなるんでしょう? そんなこと絶対にお断りよ! だから手紙を隠したのよ! それのどこがいけないの!?」


それは、あまりにも身勝手な言い分だった――



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