16 リリスとアデル

 屋敷に到着すると、ラインハルト家のメイドたちが出迎えてくれた。


屋敷内の何処にも男性の姿が見当たらない。恐らく、先に屋敷に戻ったアドニス様の計らいなのだろう。


初めて訪れた屋敷のためか、リリスは始終落ち着かない様子で私の手をしっかり繋いで離れようとはしなかった。

アデルの様子が心配で様子を見に行きたかった。けれどもリリスが離れようとしないので、仕方なく彼女を連れてアデルの部屋へと向かった。



「ここがフローネのお部屋なの?」


アデルの部屋の前に到着するとリリスが尋ねてきた。


「いいえ、ここはアデルのお部屋なのよ」


「アデル? フローネのお友達なの?」


「ちがうわ。でも妹のような存在よ」


扉をノックすると少しの間の後に扉が開かれ、サラが姿を現した。彼女は私を見ると目を見開く。


「まぁ! フローネさん! とても心配しました! 無事に帰ってきてくれて本当に良かったです!」


「お姉ちゃんが帰ってきたの!?」


すると、ネグリジェを着たアデルがこちらへ駆け寄ってきて足を止めた。


「え……? 誰? このお姉ちゃん……」


アデルは手を繋いでいるリリスを見て首を傾げる。


「彼女はリリスっていうの。私のお友達なのよ」


「私はリリス。あなたの名前は?」


リリスはアデルに尋ねた。


「アデル……。ねぇ、お姉ちゃん……」


アデルが私の空いている左手を握りしめてくると、リリスがアデルに文句を言ってきた。


「ちょっと、私のフローネに勝手に触らないで」


「リ、リリス。何を言うの?」


まさかアデルにそんなことを言うなんて。けれど、アデルも負けていない。


「違うよ、お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよ。そうだよね?」


「ア、アデル……」


2人に挟まれて困っていると、サラが笑った。


「フローネさん。お2人に人気がありますね」


「そうだよ」

「そうよ」


アデルとリリスの声が重なる。そこで私は2人に言い聞かせることにした。


「アデル、リリス。私は2人が大好きよ。だから、2人にも仲良くしてもらいたいの。分かる? 2人が仲良くなってくれると私も嬉しいわ」


「うん……」

「フローネがそう言うなら……」


アデルとリリスが頷く。


「良かった。それじゃ仲良くしてね? アデル、もう夜も遅いから寝ましょう?」


「うん。それじゃいつものように絵本読んで」


「私も聞きたい!」


アデルがおねだりしてくると、リリスも話に加わってきた。


「リリス……」


リリスはじっと私を見つめてくる。……本当に、リリスの心は子供に戻ってしまったのだ。

その事実に胸がチクリと痛むも、私は笑顔で返事をした。


「ええ、勿論よ」




****


――22時


「おふたりとも、お休みになられましたね」


サラがベッドの上で並んで眠るリリスとアデルを見つめて笑みを浮かべる。


「ええ、そうね……。ごめんなさい、サラ。驚いたでしょう?」


リリスの髪にそっと触れながら、サラを見た。


「……はい、確かに驚きましたが……フローネさんの幼馴染の方なのですよね?」


「そうなの。男の人が原因で、心が壊れてしまったの」


「だからだったのですね。アドニス様が屋敷に戻られたとき、命じられたのです。これからフローネさんが客人を連れてくるので男性使用人は姿を隠しておくようにって」


「やっぱりアドニス様の計らいだったのね」


アドニス様に今直ぐお礼を言いたい。


「サラ、アドニス様は今どちらにいらっしゃるか分かる?」


「はい、多分この時間なら書斎にいらっしゃると思います」


「なら、今からちょっと行ってくるわ」


「私がその間、お2人を見ていましょうか?」


アデルはいつも以上に夜ふかししてしまったし、リリスもあんなことがあったのだ。途中で目を覚ますことは無いだろう。


「大丈夫よ。サラも、もう休んでちょうだい」


「はい、ではもう少しお2人の様子を見てから下がらせていただきます」



こうして、私はサラに見送られてアドニス様の元へ向かった。



そして……アドニス様から意外な話を聞かされることになる――






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