3 お祭りの話

翌朝の朝食の席でのことだった。


「え? お祭り?」


アドニス様がアデルを見つめる。


「うん、おばあちゃんからのお手紙に書いてあったの。大きいお祭りがあるって」


「そうだったな…‥‥もう、そんな時期なのか」


アドニス様が考え込む素振りをした。


「どのようなお祭りなのですか?」


お祭りの内容が気になり、私はアドニス様に尋ねた。


「7月7日は、ソルトの港が開港した記念日なんだよ。しかも今年は丁度、100周年にあたる年だから大々的に開催されることになっていて、1週間は続くことになっているんだ。観光客も大勢集まって来るし、1年で一番活気がある季節だよ。そうか、アデルはお祭りに行きたいのか」


「うん、行ってみたい。お姉ちゃんと……お兄ちゃんとも一緒に」


「え?」


アデルの言葉に、アドニス様は一瞬目を見開く。


「昨夜からアデルは、アドニス様とお祭りに行きたいと話していたのです。それで、お忙しいとは思いますが……いかがでしょうか?」


可愛いアデルの為に、私からも頼んでみることにした。


「勿論だよ、皆で一緒に行こう。そうだ、フローネ。君の弟にもお祭りに来て貰ったらどうだろう? その頃には中等部も夏季休暇に入っているはずだ。ソルトに呼んで、夏季休暇の間滞してもらうのはどうだい?」


「え? 弟を……ですか?」


まさか、アドニス様の方から弟をここに呼んでも良いと言われるとは思わなかった。何しろリリスは、たった半日のお休みも許可してくれなかったというのに。


「そうだよ、会いたいだろう?」


「私も会ってみたいな~」


アドニス様とアデルが声をかけてくる。


ニコルに会える……?

もう1年以上も会えていない、私の可愛い弟に……?


けれど、ニコルの手紙の言葉が気になっていた。


『リリスさんが絶対にお姉さまを見つけ出して連れ戻すと言っていました』


そうだ、リリスが私を捜している。ニコルに滞在先を教えてしまえば、ひょっとすると居場所を見つけられてしまうのではないだろうか?


だとしたら、やはりここは断った方が良いだろう。


「い、いえ。大丈夫です。ご迷惑をおかけするわけにはまいりませんから」


心の内を悟られないように、やんわりと断る。


「別に迷惑なんて思う必要は全く感じないよ。俺も是非、フローネの弟に会ってみたいし、アデルもそれを望んでいるんだから。それに弟さんだって、君に会いたがっているはずだよ」


「アドニス様……」


そこまで言って貰えているのに、断るのは申し訳ない。むしろ拒絶すれば、かえって何か他に理由があるのではないかと疑われてしまいそうだ。

だとしたら、シュタイナー家からニコルに連絡して貰えれば……リリス達に私の居場所を知られることもないはずだ。


「分かりました。では、手紙を書いて連絡をしてみることにします」


「うん、それがいい。今から手紙を出しておけば、余裕をもって弟さんも来れるだろうしね」


笑顔で頷くアドニス様。


「はい、そうですね。では、早速手紙を出すことにします」



そうだ、私から直接ニコルに手紙を出さなければいいのだ。

シュタイナー夫人に手紙を出して、ニコルに伝えて貰えれば……恐らく大丈夫なはず。


この日の夜。私はシュタイナー家に手紙をしたためた。


「ニコル……もうすぐあなたに会えるわね」


書き終えた手紙に封をすると、ニコルに思いを馳せた。



そして……運命の日が訪れる―――









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