2 ある出会い
賑やかな広場を歩いていると、あちこちの屋台からは美味しそうな食べ物の匂いが漂っている。
屋台の中には木彫りのアクセサリーを扱っているお店や、布小物が売られているお店もあった。
お祭りに来ている人々もお店の人たちも皆笑顔で幸せそうに見える。
「こんな雰囲気を味わうのは久しぶりね……」
楽しそうな人たちを見ていると、何だか自分自身も少しだけ気持ちが上向きになってきた。
そうだ、もう私は自由なのだ。
誰かの顔色を伺い、息を殺すような生活は終わりを告げたのだから。
「それなら……少しだけ、贅沢してもいいわよね」
ポツリと自分自身に言い聞かせると、早速屋台を見て回ることにした。
「どれもとても美味しそうね……まぁ、綿菓子まで売ってるわ」
そのとき――
「ウワァァァアア〜ンッ!」
足元で子供の泣き声が聞こえた。
「え?」
驚いて声の聞こえた方向を振り返ると、小さな女の子が泣いていた。
ウェーブがかかった金色の髪がとても印象深い。
年齢は5歳頃に見える。
他の人たちは周囲の音が大きくて子供の泣き声が聞こえていないようで気付いているのは私ひとりのようだった。
その姿が、まだ小さな頃のニコルを思い出させる。何処かの貴族の子供だろうか?
とても身なりの良い服装だった。
「お嬢ちゃん、どうしたのかしら? もしかして迷子?」
私は女の子の前でしゃがむと、目線を合わせて話しかけた。すると女の子は泣きじゃくりながら話し始めた。
「う、うん。ヒック! お、おばあちゃんと……お、お祭りに……ウウッ……あ、遊びに来たけど……いなくなっちゃた……の……ウワアアアアンッ!」
女の子は大粒の涙を流して激しく泣き出した。
「よしよし、可哀想に……大丈夫、お姉さんが一緒におばあちゃんを捜してあげるから」
「ほ、ほんと……に……?」
「ええ、本当よ。絶対、おばあちゃんを見つけてあげるからね」
笑顔で女の子の頭を撫でてあげると、ようやく安心したのか泣き止んだ。
「それじゃ、早速行きましょう。その前に涙を拭かないとね」
自分のハンカチで女の子の涙を拭ってあげると、早速立ち上がって手を繋いだ。
「では、おばあちゃんを捜しに行きましょうね」
「うん!」
女の子は小さな手で私の手を握り返してきた。
「フフフ……」
なんて可愛いのだろう。まだ弟がよちよち歩きだった頃をふと思い出す。
「そう言えば、まだお名前を聞いていなかったわね。私はフローネというのよ。あなたは何てお名前なのかしら?」
「私、アデル。5歳なの」
「そう、アデルっていうお名前なのね? おばあちゃんはどんな色の服を着ていたか覚えてる?」
「えぇと……紫のドレスと、紫の帽子を被っているの」
同系色のドレスに帽子……やはり、それなりに身分の高い人なのだろう。きっと大切な孫娘がいなくなって、さぞかし慌てているに違いない。
「教えてくれてありがとう。紫の帽子を被っているのなら、分かりやすいわね。それじゃ行きましょう」
「うん!」
アデルは少しだけ安心したのか笑顔を見せた――
アデルを不安にさせない為に、広場を捜しながら私は色々な話をした。
好きな食べ物や動物、絵本の話……。
けれど家族の話、何処から来たのか等は尋ねなかった。変に思い出させて、アデルを不安な気持ちにさせたくは無かったからだ。
2人でアデルの祖母捜しを開始して30分程経過していた。
広場に集まる人数はますます増え、私は少しだけ焦りを感じていた。
帽子を被っているから、簡単に見つかると思っていたのに……。
その時、アデルが繋いでいた手をクイックイッと引っ張ってきた。
「どうしたの? アデル」
「お姉ちゃん……私、お腹空いてきちゃった……」
「え! あ、ごめんね。気づかなくて。そうだよね……お腹空いちゃったよね? それじゃお姉ちゃんが屋台で何か買ってあげる。何が食べたい?」
「あれ! あの雲が食べたい!」
アデルが指さした。
「え? 雲?」
指をさした先には綿菓子を売っている屋台がある。
「そう、綿菓子が食べたいのね? いいわ。それじゃ買いに行きましょう」
2人で、屋台へ行くと綿菓子を2つ買った。
「アデル、あのベンチに座って食べましょう?」
広場には至るところにベンチが設置されている。丁度大きな樹木の下に置かれたベンチには人が誰も座っていなかった。
「うん」
頷いたアデルを連れてベンチに移動すると、早速2人で並んで座って綿菓子を食べ始めた。
「甘くて美味しいね〜」
綿菓子を食べながら笑顔で話しかけてくるアデル。
「ええ。本当ね」
アデルに笑顔で頷く。
本当にアデルは可愛い少女だった。大人になれば、きっと美人になるに違いない。
そう、リリスのように……。
『勝手に私の元からいなくなったら……承知しないわよ』
一瞬リリスの言葉が耳に蘇り、首を振った。
「お姉ちゃん。どうしたの?」
「いいえ、何でも無いわ。あ、お口の周りが汚れているわよ?」
ハンカチで口元を拭いてあげながら思った。
私は子供が大好きだ。
シッターの仕事を探してみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えていた矢先。
「アデルッ!!」
突然大きな声が聞こえた――
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