3章 1 2人の結婚式

 クリフとリリスの婚約発表から月日は流れ、11月になった。


私は今も相変わらず、洗濯担当のメイドとして働いていた。

親しい人も無く1人きりの仕事場で働き、食事の時間も僅かばかりの休憩時間も共に過ごす相手もいない。

孤独で辛い日々を送っていた。


あの日以来、私はクリフにもリリスにも会うことは無かった。

私をお茶を用意するメイドとして呼び出したのは、婚約したことを告げるだけが目的だったのだろう。


決して、私に会いたい為ではなく……。

今となっては、そう思えるようになっていた。


今の私の唯一の生きる希望。

それは働いてお金を貯めて、いつか弟のニコルと一緒に暮らすこと。

だから私はまだ頑張れる。自分にそう言い聞かせながら、必死で毎日を生きていた。



そして……ついにその日がやってきた――




****


 

 良く晴れた11月のある日。


今日も私は1人で洗濯場で仕事をしていた。


「ハァ〜……すっかり水が冷たくなったわ……」


冷え切った手に、時折息を吹きかけて温めながら洗濯していると不意に声をかけられた。


「フローネ!」


「はい」


呼ばれて顔を上げると、メイド長が両手を腰にあてて私を睨んでいる。彼女は酷く怒っているように見える。


「メイド長……? どうされたのですか?」


「ちょっと、こっちへ来なさい」


イライラした口調で、私を手招きする。何故そんなに機嫌が悪いのだろう? 何か怒られるようなことをしてしまったのだろうか?


「何でしょうか……?」


怯えながらメイド長の元へ行くと、いきなり質問された。


「フローネ、お前は今日が何の日か知っているかい?」


「今日……ですか……? 知ってます。クリフ様と……リリス様の結婚式の日……ですよね?」


そう、今日はクリフとリリスの結婚式。

ついに……この日がやってきてしまったのだ。


「そうだよ。もうすぐバーデン家の教会で結婚式が始まる。早く行っておいで」


「え……?」


その言葉に耳を疑う。「行っておいで」とは、一体どういう意味なのだろう?


「何だい? 聞こえなかったのか? 相変わらずグズな娘だね。早く教会へお行きったら」


メイド長はますますイライラした様子で命じる。


「あ、あの……でも、私はただのメイドですよ? しかもまだ見習いの……それなのに、教会へ行くって……参加するということですか?」


「うるさいね! こっちに聞かれたって知るものか! さっき、クリフ様つきのフットマンから知らされたんだよ。フローネを結婚式に参加させるようにって!」


「クリフ……様が?」


その言葉に青ざめる。

今日はただでさえ、クリフが結婚する日で辛いと言うのに……この私に結婚式に参加しろだなんて……!


「で、ですが参加すると言っても、私はメイド服ですよ? 恐らく式に参加している方々は皆さん、正装している方々ばかりのはずですし……」


「だから、知らないって言ってるだろう!? お前のような下っ端のメイドの手が必要なんじゃないか? いいから、早く行っといで! あんたが遅れたら、こっちだってとばっちりを食うかもしれないんだよ!」


「は、はい! 申し訳ございません!」


震えながら返事をすると、洗濯場を飛び出した。


クリフとリリスの結婚式に参加するために――

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