冴えないおっさん達の異世界生活

雷華

第0話 坂本達也

(同級生たちが人生を謳歌する中、俺は何をしているんだろうか。)

何年も洗っていないカーテンの向こう側がどう変化したのか分からない、埃が舞う薄暗い部屋、山積みになった漫画、机の上に散らばる空になったPTPシートと安酒の缶が散らばる世界が俺、坂本達也という人間を表している。

苦労して入学した大学を卒業し、最初に就職した会社ではパワハラとモラハラに耐えきれず辞めて、自分を変えようとフリーで配られてる求人誌で仕事を探した。

しかし面接を受けては落とされる。

受かる所を、自分を受け入れてくれる場所を探しては突き放されるを繰り返す。

そんなことを何度も繰り返せば自然と心が壊れていく、そんな俺に、ある人の一言が今でも覚えている。

「で?君今まで何してたの」

興味なさげに履歴書を机に置いて、ため息交じりに問われた時、息が出来ず、応えたくても応えることが出来ない。

言葉を詰まらせながらも精一杯応えても「あ、そっう…で?」と他にないの?という態度に何も言えなくなる。

何か言わなければ、その焦りの中無情にも面接担当者は告げた。

「僕はね、『一緒に働きたい!』って思う人じゃないと雇わないんだよね。」

「…!は、働きたいです!私はここで働く人達の雰囲気に惹かれて」

精一杯、此処で働きたい意思を伝える、しかし面接担当者は聞く耳が無いらしい。

ため息交じりに「皆最初そう言ってるんだよねぇ」「そう言う人程すぐに辞めちゃうからなぁ」と坂本の言葉を全て否定的に返し、チラリと時計に視線を向ける。

「あーもう良い?そろそろ次の面接予定の子が来るから、合否は一週間以内に電話で伝えるで良いよね?」

「…はい、お願いします」

「はいはい、じゃあね」

その後の事は覚えていない、覚えていたのは夢が壊れていく感覚と、全てを忘れようと衝動買いした安酒を馬鹿みたいに飲んでトイレで吐き続けた時の苦しみくらいだ。

面接の合否は、言わずもがな来ることもなく用事で訪れた時、見覚えのない若く明るい青年が胸に研修中と書かれた名札を付けて一生懸命仕事を覚えようと接客をしていたのを見て、すべて悟った。

(俺は、この世界では不悉ような人間なんだ)

それからの求職活動は全て辞めた、他人とのコミュニケーションが得意でなく、また短期で離職すれば雇ってくれた職場に迷惑を掛けてしまうのではというネガティブな思考が足枷になっていたと思う。

(あー…終わりてぇな、こんな人生)

バカ騒ぎしてた友達は皆それぞれ充実した人生を送っている、昔は頻繁にやり取りをしていた友達は結婚し、子供が生まれた。アニメが好きだった友人は会社を立ち上げ今じゃ立派な社長だ。

久々にあってもリアルの話しかしない、そして誰かから「そう言えば坂本は今何してるの」という親切心のバトンを渡され、「あ…、俺は…まぁぼちぼちやってるよ」と言葉を濁し皆と距離を置く事しか出来ない。


この世界は俺だけだ、こんな社会に貢献できていない人間なんてと自身を蔑みながら、酒を仰ぐ。通っていた心療内科も無意味に感じていくのを止めた。

眠れない毎日を酒を頼って眠る、今日もそうして眠ろうとした時、ふと気づく。

「…んだよ、あれが最後だったのか」

空っぽの冷蔵庫の中には何もない、自炊もろくにしないこの冷蔵庫の役割は酒とエナジードリンクを冷やす事だ。

無機質な白を前にして深くため息を吐いた、…面倒だが外へ出るしかない。

財布と携帯、最低限の荷物を持って外に出る。

冷たい木枯らしの風に思わず顔をしかめるが酒が無ければ眠れない。渋々外に出て最寄りのコンビニまで向かう。

静かな夜の道は人目を気にしなくて済むから良い、明るい時間帯だったらこんな時間からと白い目を向けられ、その時間帯に生きる人達が全うに生きていると感じて無意識に僻んでしまう。

…それが無い分、夜は気が楽だ。

コンビニのドアを開いて店内に入る、ガランとした店内には気だるそうにあくびを零すアルバイト一人、(こんな時間まで頑張ってるなぁ…)と尊敬しながら向かうのは酒のコーナーだ

近くにあった篭に何時も飲む酒を数種類適当にいれてレジに持って行けば店員は一つ一つバーコードを通す。

「袋どうしますか」

「お願いします」

今日初めての会話がこれだ、コンビニのロゴが書かれた袋に酒が丁寧に詰められ、会計を終えればそれを持って外に出る。

肉まんでも買おうかと迷ったが生憎今の時間帯は作っていないらしい、口は肉まん寄りだったがこれも酒で上書きすれば問題ない。

(あー…そういや今日あのアニメの配信日だったなぁ、それ見ながら酒飲んで寝るか…)

どうせ明日も何も予定という立派な物は無い、自宅に引きこもって溜めてたアニメを消化して…と考えていた時、背後から強い衝撃に襲われ、思考が止まる。

一瞬の浮遊感、その後やって来た痛みに体が動かせない。

「な…に?」

ぼやける意識の中、何かが駆け寄る。人だと分かった時俺は轢かれたんだと理解し、早く救急車を呼んでくれと求めるとその人物は携帯を取り出し何処かへ電話しようとしたその手を止め、急いで車の方へ戻ってエンジンをかける。

(え、見捨てんの?轢いたのに???自分の保身を優先した???)

痛みが増していく、それと同時に意識もかすれていく、この感覚で眠ると絶対に死ぬと察して自分の携帯を取り出し通報しようとした…がふと考えがよぎる

(あぁ、でも、入院とか手術とかになったら金掛かるよな…家族にも迷惑かけるし、俺より優先する命があるだろうから…)

この世界には未練なんて無かった、むしろ楽に死にたいと思いながらも死ねずにずるずると生きていたこの人生を終わらせるなら今が都合が良いかと思考が行き着けば、そのまま重たくなっていた瞼を閉じ死を受け入れた。

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