十章 新たなる旅立ち
十章 新たなる旅立ち 1
2人と1匹はひとまずルディの部屋に集合した。ルディとクルトが並んでベッドへと腰掛け、スピカはその正面にある棚の上に乗った。
「質問の前に、まずは自己紹介からだにゃ。まだ2人の名前も知らないにゃ」
そういえば、出会ってから今まで名乗ったことがない。いまさらながら自己紹介をすることになった。
「オレはルディ。ルディ・ブラウン。15歳。得意魔法は白魔法。この街で魔導士をしている。デビューしたばっかで、医務室勤務だ」
「僕はクルト。姓はシュタイン。最近16歳になったばかりで、得意魔法は風属性の攻撃魔法。ルイと同じくデビューしたての魔導士だけど、所属は違って、主に治安維持活動をしているよ」
「ルディ、クルト、よろしくにゃ。ボクも自己紹介するにゃ。名前はスピカ。主様がつけてくれたにゃ。猫じゃなくケット・シーだにゃ。魔法は黒魔法が少し使えるけど、あまり得意じゃないにゃ。中央機関では、主に諜報活動をしていたにゃ」
ルディの名前を聞いたスピカは少し驚いたような表情をした。ルディとクルトは軽く姿勢を正すと、本題に入ることとした。スピカの前の主人についてと、ルディとの関係を質問するのだ。そんな2人の様子をみて。スピカもシャンと背筋をのばすと、なんでもきいてにゃ、といった。
「じゃあ、まずはさっききいたことの確認から。ルイの前世がスピカの主人で、魂が一緒だから今のスピカの主人はルイになる、であってるかな?」
「だいたいあってるにゃ」
「じゃあ、スピカの前の主人について教えてくれ」
スピカはどっから話そうかにゃ、と少し悩むようなしぐさをした。思案しているのか、尻尾がゆらゆら揺れている。
「2人はルディ・ザクセンって人物を知っているかにゃ?」
「あぁ。というか、オレの名前ってその人からとってつけたっていってた」
「たしか、中央機関の魔導士だったんだよね。今の隊長さんと並んで、すごく活躍したって近代史の本に書いてあったよ。20年位前、任務中に亡くなったんだよね?」
「ボクの主様は彼にゃ」
衝撃的なことをサラッといわれて、思わず2人は固まった。スピカの主人は予想以上に大物だったようだ。先に硬直から解けたクルトが、ということは……と考えを巡らせている。ルディも同じことに気づく。自信の前世は彼だといわれたようなものだ。到底信じられない。
「でも、ルディ・ザクセンって天才だったんだろ。魔力量もすごく多かったって。オレ、そんなんじゃないぜ」
「周りを魔導士に囲まれているから自覚がにゃいみたいだけど、15歳で上級魔法まで取得するのは普通じゃないにゃ。多分、環境が整えばもっと成長するとおもうにゃ」
「そうはいっても、魔力量が全然違うだろ。たしか、魔力量は魂の質によるって習ったぞ」
「そのとおりにゃ。本来、魂が同じなら魔力量も引き継がれるはずだけど……、転生魔法はわからないことが多いにゃ。表面に現れないだけで、深層に眠っているのか、どっかに落としてきたのかはわからにゃいけど、あまり重要な要素ではないにゃ」
ボクの封印を解いたことの方が重要にゃ、とスピカがいった。信じがたいが、実際ルディは封印を解いて、スピカと直接会話できるのだ、無関係だとも思えなかった。ルディがうーんとうなっているあいだにも、クルトが質問を重ねた。
「ルイの前世はその人だっでことにしといて、ルイのことを探している人は誰なの?」
「ボクは主様が亡くなってすぐに封印されたから、詳しいことは知らにゃいにゃ。でも予想はつくにゃ。多分ラインハルトにゃ」
親友だったにゃ、とスピカはつづけた。ルディはなんだかいやな予感がした。ルディの前世がルディ・ザクセンだとすると、その関係者でラインハルトの名前がつく人物は1人しか思いつかない。クルトも同じ考えなのか、おそるおそる姓を口にする。
「その人って、ラインハルト・ケスラーだったりしないよね?」
「なんだ、知ってるにゃ」
説明する手間が省けたにゃ、なんていっているスピカの横で、ルディとクルトは肩を落とした。知ってるもなにも、彼は魔術師では最高峰と評される人物だ。たしか中央機関で魔導士を率いる隊長をしているはずだ。もちろん中央から遠く離れたこの街にも情報は届いている。
「なんで隊長殿がオレのこと探してるんだよ!」
ルディはそう叫ぶと頭を抱えた。ラインハルト・ケスラーは、ルディにとっては雲の上の人物だ。できれば会いたくない。その一方で、そんな重要人物からの要請を、たかがいち魔導士に過ぎない自分が断ってもいいのか、という葛藤もある。
うーとうなり声を上げて下を向いたルディを慰めるようにクルトがその頭を撫でた。隣ではスピカが、隊長とはラインハルトも出世したもんだにゃ、なんていっている。
5分ほどして復活したルディにはまだ疑問があった。自身の前世と探している人物については理解した。探している割になぜ本人が出向かないのかもわかった。しかし、会って何がしたいのかがわからない。ルディには前世の記憶というものは一切ないのだ。
「で、隊長殿はオレに会ってどうしたいんだ?オレ、前世の記憶とかないから隊長殿のこと、わからないぜ?」
「うーん。それは本人にきかないとわからにゃいにゃ。でも、記憶がないのは知っていると思うにゃ。なにせ、転生魔法をかけたのは彼だにゃ。記憶は肉体に紐づくものだから、転生魔法じゃ引き継げないことも知っててやったにゃ」
「ふーん。それならいいけど……」
「おそらく、もう一度会って無事を確認したいとか、名前を呼んでほしいとか、そんな感じだと思うにゃ」
「まぁ、それくらいならオレにもできそうだな」
思い出話がしたい、とかいわれたらどうしようかと思っていたが、ただ会うだけならルディに損害はないだろう。なんとなく、付いていってもいいか、と思い始めたルディに気づいたのか、スピカがこういった。
「ボクとしては中央機関に来てもらえた方がありがたいんだけど、ラインハルトに会ってそ、れじゃあさようなら、とはならいにゃ。同行するってことは、中央機関に所属して訓練を受けることにも同意したことになるにゃ。簡単には戻ってくれないにゃ。ちゃんと考えるにゃ」
スピカは魔導士たちに、説得する、といった割に、ルディに無理強いするつもりはないようだ。ルディの今後も考えて、しっかり考えるように促してくる。
「あの魔導士たちって、隊長殿がオレを探しているから、中央機関に来てほしいってだけか?」
「最初の接触は隊長殿が理由だろうけど、今はそれ以上に主様の実力を認めているからだと思うにゃ。さっきも言った通り、15歳で上級魔法を使えるのは一種の才能にゃ。普通、その齢じゃ初級魔法すらまともに使えなくてもおかしくないにゃ。中央機関は万年人材不足だったにゃ。きっとその才能をほっておけないのにゃ」
ルディはその言葉をきいて、考え込むように視線を下げた。さっき魔導士に同行を求められたときには、養成所をはなれるつもりはないといった。しかし、それは実力不足なのに中央機関にいってもどうしようもないと思ったからだ。ルディの力を認めたうえで勧誘してくれているのなら、検討くらいはおこなってもいいだろう。
「クルトはどう思う?」
「ルイの好きなようにした方がいいと思うよ?」
「そうじゃなくて、お前も誘われただろ?行く気はあるか?」
クルトは突然自身に話が及び、びっくりしたように目を見開いた。そして、少し考えるようなしぐさをすると、ゆっくりと口を開いた。
「うーん。ここには育ててくれた恩があるから、離れたくないって気持ちはあるんだけど……。それ以上に、中央機関に行ってもっと強くなれたら、守れるものも増えるかなって思うんだ。」
「ルナやニコラスたちと離れるのはいいのか?」
「うん。2度と会えないわけじゃないし」
そうか、というとルディは目を閉じた。ルディも中央機関に行くのが絶対いやなわけではない。しかも、拒否したところで強制連行されそうだ。クルトも中央機関へと行くことに抵抗はないらしい。だったらルディに同行を拒否する理由はなかった。
「よし、じゃあ一緒に行くか!」
ルディは目をあけそう告げるとベッドから立ち上がった。
「えっ!僕のことはいいんだよ、絶対行きたいわけじゃないし」
「オレも同行がいやなわけじゃないんだ。というか、強制連行されそうだし、自分で決めた方が気持ちがいいだろ。お前も一緒ならいうことないさ」
それに……、とルディはクルトの方を向くといたずら気にほほ笑んだ。
「どこに行くにも一緒、だろ。お前が嫌がってもついていくぜ」
「――!わかった。ルイがいやじゃないんだったらそれでいいよ」
クルトは照れたように視線を逸らすと、ともに中央機関へと赴くことに同意した。
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