入城。損害賠償は無しで

 

 「もうそろそろだ」


 「分かった」


 お兄さんからもらった魔導書は読み終えた。脳内でイメトレをしていた。

 そろそろ集中しないと。よし、次はミスしない。



 「あれだ」


 「デカ……あれ?なんか破損してない?」


 「あそこ時計台あったんだけどな。無くなってる」


 よく見ると破損した箇所に焦げた跡がある。多分俺のせいだ。

 あの炎がここまでやってきて破壊したんだろう。

 時計台なのに時計が無い。損害賠償はいくらになるだろうか。

 でも、攻撃してきたのはそっちだから仕方無いよね。因果応報ってやつだ。



 「見張りもいないんだね」


 「天使たちは中にいる。攫った人たちを監視してるんだと思う」


 「そういうことか」


 天使たちは人間を全員捕まえたと思っている。だから、見張りもつけないで中にいるのか。

 それは好都合だ。簡単に中に入れる。



 「今のうちに入ろう」


 「あぁ」


 船を入り口付近に止め、正門から堂々と侵入した。

 警備は誰もおらずホントに簡単に入れた。



 「俺は攫われた人たちを探す。シンは城の主に会ってこい」


 「主?」


 「時の女神だ。会って話を聞いてきてくれ」


 「それは分かったけど、1人で大丈夫?」


 「隠れながら潜入するのは得意だ」


 「分かった。じゃあまたあとで」


 俺はリワンと別れ城の主である時の女神に会いにいくことに。

 時の女神に会うのも怖いけどリワンの方が心配だ。

 敵の根城にわざわざ潜入してきたんだ。至るところに敵がいるだろう。



 「でも、時の女神ってどこにいるんだ?」


 城内マップなんかあるわけがない。しらみつぶしに探しながら行くしかない。

 途中で敵と会ったら戦うしか無いか。いきなり攻撃してくるあたり、会話が出来そうでも無いし。



 


 ――――――――――――――



 「ん?おかしいな」


 城内をある程度探索して分かったのは天使が一体もいないということ。

 どうなってる?敵の根城で敵がいないなんて。まさかの無血開城?

 それはそれでありがたいけど、なんで人間を襲うのか話を聞かないと。



 「お兄ちゃん!」


 「ん?どうしたの?」


 城内を探索していると小さな女の子が棚に隠れていた。

 翼は無い。人間だ。人間の子がなんでこんなところに。



 「逃げてきたの」


 「ホント?みんなどこにいるの?」


 「大きなところにいる」


 リワンと連絡が取れればいいのに……

 あ、【テレパシー】とかいう魔法あった気がする。物は試しでやってみるか。

 リワン、リワン聞こえるか。



 (なんだ!?)


 (リワン。よく聞いて。みんなは大きな空間にいる)


 (了解だ。ホントに頼もしいな)


 (あと、デカすぎる花瓶が置いてあるフロアに小さな女の子が隠れてる。こっちも助けに来てくれ)


 (そっちも了解だ)

 

 これでリワンが攫われた人たちの救出に向かうはずだ。

 とりあえず、人の命は助けられたかな。



 「俺とは違うお兄ちゃんが助けにきてくれるから。もう少しの辛抱だよ」


 「うん」

 

 出来ることなら少女を助けてあげたいがここはリワンを信じよう。

 俺は時の女神に会わなければいけない。



 「あと残ってるのここくらいか。失礼しまーす」


 「誰でしょうか?」


 大きな入り口を開け中に入ると体育館のような広さの部屋に大勢と天使たちと次元の違うオーラを出している人がいた。さらに奥には褐色肌で白髪の人たちがたくさんいた。その人たちの全員が体がボロボロで痩せ細っている。

 あれが時の女神。翼デカ。持ってる杖、長。人じゃねぇ。

 女神ってこれくらいなのかな。



 「あなたが時の女神?」

 

 「あなたは何者ですの?天使……ではないですよね」


 「僕はちょっと頼まれて天界の問題を解決をしにきました。この翼は飾りです」


 「あなたですか。少し前に出た隊と連絡が取れなくなりまして。誰かに襲撃されたのだと思って兵力を一か所に固めていました。隊を襲ったのはあなたですね。それと時計台を破壊したのも」


 どうりで城の中に誰もいないわけだ。戦術上の無血開城だったってわけか。

 


 「それに関しては正当防衛です。そっちが先に攻撃してきたんで。時計台はちょっと力加減を間違えちゃったっていうか」


 「私は人間は生け捕りにしなさいと言っています」


 「あなたが襲った隊は人間が住んでいた島を破壊するために編成された精鋭部隊です。あなたは島破壊の攻撃を自分自身に来ていると勘違いしてのではありませんか?」


 「……多分そうです」


 確かに人間は全員攫っていた。だとするとあの光は島を破壊するための攻撃。

 俺たちが勘違いして反撃した結果、それは反撃ではなく先制攻撃になってしまったと。

 でも、あれ反撃しなかったら死んでるし。仕方ないよね。



 「なんで人間を攫ってるんですか?」


 「人間は愚かです。自分たちは生物の覇者となったのに差別を繰り返す。自分たちよりも優れている存在である”魔人”を」


 「差別?魔人?」


 「我々は常に弱者の味方です。虐げられている魔人の味方をしてこそ天使であり女神なのです」


 「味方をするのに人間を攫う必要が?」


 「地上に住んでいる人間たちに交渉するのです。天界にいる人たちの命と交換に魔人たちへの差別・奴隷を廃止させるんです」


 「なんで力で?会話という選択肢は無かったんですか?」


 「何度もしようとはしました。ただ、彼らは聞く耳を持たなかった」


 女神の後ろにいるのが魔人っていう種族の人たちか。

 その人はたちはひどい仕打ちを受けてて、それを辞めさせるべく女神たちは立ち上がったってわけか。

 武力行使はあれだけど、これの元凶人間にあるな。人間が差別しなければいいだけの話だ。女神の言ってることには納得できる。

 ただ、やり方があまり良くない。それも仕方なかったのかもしれないけど。

 天界の問題を解決するには地上に降りる必要があるな。

 


 「なら、僕が人間と話をすればいいだけの話です」


 「あなたが?人間であるあなたが?」


 「はい。あなたの言ってることにはすごい共感しました。悪いのは確かに人間です。ただ、だからといって力でどうにかしようというのはあまりよくない」


 「綺麗事ばかりでは解決しないのです」


 「だから、僕に任せてください。僕は天界の問題を解決してくれって頼まれました。この問題を解決するためには地上にいる人間たちと話をする必要がありそうです」


 「あなたは……特別な存在のようですね」


 「そんな、照れますね。そんな言い方されると」


 「それにあなたは強い。心も体も」


 「それは少し武術をかじってたんで……」


 何もやってない。生まれて18年。習い事なんかしてこなかった。

 


 「ただ、あなた1人に任せていいものでしょうか?」


 「任せてくださいよ」


 「……ただあなたは我々に先制攻撃をしている。敵意があるといえばある。だが、話は通ずる。難しいですね」

 

 「その攻撃は事故だったんですよ。ホントに」


 「例え事故でも被害が出ています」


 「そうですよね。すいません」


 「それにあなたがホントに信じるに値する人間か疑わしいです。一度お手合わせを願えますか?」


 断ったら一斉攻撃されそう。ここは信用を勝ち取るためにも戦った方がいいのか?

 でもここはやるしかないか。


 「分かりました。お願いします」


 「手加減は無しでお願いしますね」


 「はい」


 天使たちや魔人たちは部屋の奥に隠れる。こんな感じになる気はしてたけど、いざなると緊張する。

 体の強張りをほぐすように体を叩き気合を入れる。



 「スゥー……!」


 俺が深呼吸をして瞬きをすると目を開けた瞬間には前に女神はいなかった。

 気配を後ろに振り返ると女神が魔法の準備をしていた。

 俺は刀を抜き、薙ぎ払う。女神はまた姿を消した。辺りを警戒していると頭上に気配がして見上げると女神が杖をこちらに向け呪文を唱え終わっていた。



 「雷光デイン


 「あぶねっ!」


 間一髪。コンマ1秒でも違えば直撃だった。危なかった。

 体制を立て直し女神の位置を確認する。おそらく魔法の射程範囲内だ。

 ちゃんとイメージして呪文を唱える。



 「陽炎カゲロウ


 指拳銃を作ってその指先に炎が溜まっていく。見る見る肥大化し城に風穴を開けそうな程の大きさになった。

 女神に向かって撃つ。当たったのかどうかも分からないほど凄まじい風と轟音が鳴り響いた。

 これもやりすぎ?割りと手加減したと思うんだけど。



 「規格外ですね……女神である私に勝る圧倒的な威力。そんな威力の魔法を何発も撃たれてはこの城が壊れてしまいます」


 「終わりですか?」


 「あなたは信用に値する人間です。人間の横暴を止めてください」


 「はい。任せてください」


 「それとあなたの力は大切にしてください。私の加護を与えます。手を」


 「はい」


 女神と手を重ね合わせ目を閉じる。自然と守られているような感覚がする。



 「私の加護があなたを守るでしょう」


 「ありがとうございます」

 

 「シン!大丈夫か!?」


 「あ!リワン!この通り大丈夫だよ」


 「そんな悪魔信じるな!」


 「馬鹿!!」


 リワンは腰に差している剣を抜くと女神に向かって投げた。

 俺は止めることが出来ず、剣が女神に向かっていくのを見ているだけだった。



 「これくらいじゃ私は死にませんよ」


 剣は女神の数㎝前で見えない壁に阻まれ止まった。良かったさすがは女神だ。

 簡単には死なないか。俺が安堵してため息をつく。

 瞬きをして目を開けるとあの”お兄さん”がいた。リワンが投げた剣を握りしめている。



 「あ、あなたは!?ど。どうして!?」


 「女神。お前のやったことは神に対する反逆だ。この場で処分する」


 お兄さんが止まった剣を薙ぎ払うと重い音と共に女神の首が地面に落ちた。

 なんだこれ?は?



 「反逆者は全員この場で処分する」


 お兄さんはその後ジェノサイドを始めた。

 この場にいた天使、魔人は全員殺された。生き残ったのは俺とリワンだけ。

 なんだこれは?何がどうなってる?天界の問題は女神自身だったのか?

 確かに女神は問題の渦中にいた。ただ、ホントの問題はここにはなかったはず。

 なのに、どうしてこの人はためらいもなく殺せるんだ。悪いのはこの人たちじゃない。

 下にいる人間たちだ。なんで?なんで魔人も一緒に殺されないといけない?



 「なんで魔人まで?」


 「なんでってこいつらが問題の渦中だよ。こいつらが存在さえしなければ天界がゴタつくことも無かった」


 この人は何を言って……?

 お兄さんの刺すような視線に息が止まる。



 「とにかく一件落着だ。シン君地上に送る。華やかな地上ライフを送ってくれたまえ」


 なんだこのやるせなさは。依頼人が解決だと言ってるのだから俺がやることはない。もう終わったんだ。

 なのに、なんでこんな気持ちになるんだ。俺には関係の無いことだったと割り切れってか?

 いや、これは間違ってる。悪いのは人間だ。魔人や天使、女神じゃない。

 この人お兄さんは何かを隠してる。俺は一度足を突っ込んだんだ。正しいと思うことを最後までやり遂げてやる。

 たとえそれでこの人お兄さんを敵に回しても。

 お兄さんは僕を見るとニッコリ笑った。

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