31人クラスでクラス転移が起きたが30人しか転移出来ない模様

in鬱

1人だけ

 「うぅ、頭が……」


 目を覚ますとどこかよく分からない場所にいた。黒を基調とした真っ黒な部屋。

 俺は何をしていたんだっけ……朝ごはんを食べて学校に行って、そこから先の記憶が無い。

 あれ?朝ごはんは何を食べたっけ?納豆ご飯に卵をかけたんだっけ?卵かけご飯に納豆を混ぜたんだっけ?

 とにかく記憶が定かじゃない。遅刻したのかそうでないのかも分からない。



 「目を覚ましたかい?」


 「あなたは?」


 「僕のことはお兄さんって呼んでくれたまえ」


 「わかりました……?」


 黒から人が出てきた。担任よりも年はいってない若い男の人。

 出てくるなりお兄さんって呼ばせるか。おじさんって呼ばれるのが相当嫌なんだな。



 「ここは?」


 「ここは異空間だよ」


 「は?」


 「だから異・空・間い くう かん


 「いや、そういうことじゃなくて……」


 何を言ったのかを聞き返したんじゃなくて、どういう意味なのかを聞いたんだけど。

 丁寧に異空間って言われただけだった。異空間って言われて、「あ、そうですか」ってなるか。

 一体どこなんだよ。ここもお兄さんも。



 「そういうことじゃなくてって言われても異空間だからね。答えようがないよ」

 

 「はぁ……なんで俺はここに?」


 「丁寧に説明しないと頭爆発するだろうから。よく聞いてよ」


 「頭爆発するんですか?ここって」


 俺は爆発するジェスチャーを頭上でする。


 「…………違う。そういうことじゃない」


 「え?じゃあどういう……」


 「はい。よく聞いて」


 ここってそんな不思議な空間なんだ。



 「まず、クラス転移って知ってる?」


 「何ですか、それ?」


 「学校の学級、つまりクラス全員が異世界に行くことだ」


 「はぁ……」


 「それが君のクラスで起きた」


 「……なんでクラス転移が起きたんですか?」


 「異世界で大変な事が起きるとそれを解決するために現世から人を呼び出すんだ。今回も異世界で危機が起きたから君たちが呼ばれたってことだ」

 

 異世界の危機を解決するために俺たちが呼ばれた。勝手に重い責任を負わされたってことか。

 滅茶苦茶、迷惑だってことだな。自分たちで解決しようとは思わないのか。



 「今回は30人だけ呼ばれることになっていた」


 「はぁ……はい?」


 「そう、君のクラスは”31人”だ。1人あぶれてしまう」


 「で、どうなったんですか?」


 「……君が省かれた」


 「ですよねー」


 31人クラスで30人しか転移出来ないクラス転移が起きたということか。

 なんで俺なんだよぉー!ぼっちみたいじゃないか!

 いや、現実でもぼっちだったか。やかましいわ。



 「あぶれてどうなったんですか?」


 「色んな異空間をジェットコースターみたいに彷徨ってここに流れ着いたよ」


 「戻ることは……」


 「残念だけど出来ない。死ぬまで異空間を延々と彷徨う定めだ」


 「マジっすか……」


 死ぬまで異空間を彷徨うとか想像しただけで背筋が凍る。

 マジでどうにかならないかな。一生のお願い使ったらどうにかならないかな?

 


 「だけど、特別に異世界に送ってあげるよ」


 「えっ?えー」


 「なんでそんな落ち込むんだい?」


 「異世界行っても危機を救うことになるんですよね?」


 「本来はね。でも、今回は僕が送るから僕のお願いを聞いてほしい」


 「あーなるほど」


 どっちみちお願いは聞くのね。タダで異世界には行けないと。



 「危機を救うよりもマシか……出席日数危なかったし現実逃避には持って来いか。やります」


 「そんな軽い気持ちで行く?」


 「まともに考えたら頭爆発しますよ」


 「あ、そう。じゃあ異世界に、送る前にお願いをしておくよ」


 「はい。何をすればいいんですか?」


 「これから君を天界に送る」


 「ん?天界?」


 「そう天界。雲の上にある国だと思ってもらえばいい」


 「なるほど」


 雲の上にある国。ラ〇ュタみたいなもんか。

 それかスカイ〇アか。まぁファンタジーみたいな場所って認識でいいか。



 「その天界でなにやら良くないことが起きてるみたいなんだ。君には何が起きてるのかを調べて欲しいのと問題を解決して欲しい」


 「結局、本来のクラス転移と似たようなもんか」

 

 「ん?何か言ったかい?」


 「まさか。もう耳、ボケたんですか?」


 「……気のせいか」


 アブねぇー聞かれてたら何されたか分からないや。

 口の利き方には気を付けたほうがいいと本能が言ってる。



 「ふぅー」


 「じゃあ送るよ」


 「え、そんな急に」


 「バイバイ」


 お兄さんはニッコリと笑うと手元の赤いをボタンをポチっと押した。

 ボタンが押された瞬間、俺の体は勢いよく上に吹っ飛ばされた。

 聞こえてたのかよぉー!なら、その場で言えやぁー!



 「よしクソガキは送った。あとは、あの子が苦労しないように細工しておくか」


 「……これでよし。それにしても僕に対して耳ボケたんですかってなめてるな」

 

 男は胸ポケットからスマホのようなものを取り出しイジる。

 数分間操作してやるべきことが終わった男はその場からフェードアウトした。

 男が消えると二人がいた異空間は完全に消滅した。




 ――――――――――――――



 「うぅ……頭がズキズキする」


 目が覚めると体の一部が瓦礫に埋まっていた。

 瓦礫をどけて立ち上がる。目の前に広がっていたのは街らしきものがあった場所。

 建物は無く至るところに瓦礫が散乱している。街があったけど破壊されたって感じだ。

 この場所で何があったんだ。



 「一体これは?」


 「うりゃぁぁぁぁ!!」


 「うぉぉぉぉぉぉ!!」


 辺りを散策しようと一歩踏み出すとすぐ隣で大声が聞こえた。声のした方を向くと剣を振りかざした青年がいた。

 俺に対して剣を振ろうとしているのでとっさに避けた。剣が思いっきり地面にたたきつけられ鈍い金属音が響く。

 なんでなんでなんで?え?なんで?



 「人違いだって!」


 「人違いなわけあるか!その翼!」


 「え?翼?」


 青年に後ろを指差され振り返ってみると黄金色の翼が背中から生えていた。

 はぁぁぁ!?どうなってんだよ!しかも黄金色って……完全に嫌がらせだわ。



 「マジで知らないんだって!ホントに!」

 

 「お前は天使じゃないのか?」


 「ん?天使?」


 アイムヒューマンなんですけど。

 エンジェルだったらもっとオーラあると思うな。



 「天使じゃないのか……?じゃあなんで翼が?」


 「それは知らん。俺も知らん。なんなら俺が聞きたい」


 「何しに来た?」


 「え?えっとー」


 いきなり襲われたから飛びかけてたけど、俺は天界の異常を解決しに来たんだった。



 「俺は天界の問題を解決しに来たんだ」


 「どうして?」


 「どうしてって言われましても……俺も頼まれたから」


 「誰に?」


 あれ?名前なんていうんだっけ?聞いてないや。

 お兄さんと呼んでくれとしか言われなかったからなぁー

 どうやって答えよう。



 「よくわからんお兄さんに」


 「?」


 「まぁ俺のことは置いといて、ここで何が起きてるの?」


 「ホントに助けてくれるの?」


 「うん。そのために来たから」


 まぁ本心じゃないけどね。本音と建前は使い分けないと。

 さっきみたいに痛い目見るからね。痛い目見てるのは今もか。



 「いきなり天使が襲ってきたんだ」


 「天使が?」


 「俺たちは何もしてないのに……」


 「天使がいるの?」


 「天界には人間と天使が共存してるんだ」


 「なるほど」


 ホントに天使っているんだな。ちょっと感動。



 「共存してたのにいきなり襲ってきたと」


 「何十体って群れで襲ってきて」


 「君以外に残ってる人は?」


 「いない。みんな攫われた」


 「攫われた?どこに?」


 「多分ここから北東にある城。天使の住処だ」


 「攫って何するつもりだ?」


 とりあえず、今天界で起きてる問題は確認できた。

 ここからどうすればいいんだ?攫われた人たちを解放して天使たちを倒す?

 うーん。解放はするけど、倒すのはなんか違うな。話し合いでどうにか出来ないか。



 「おかあさんに会いたい」


 「……行くか」


 「正気か?」


 「城に行かなきゃ何も始まらない。城に行くしかないよ」


 「俺も行く」


 「君の名前は?」


 「リワン」


 「俺の名前はシン。よろしく」


 俺たちは固く握手を交わした。



 「どうやって行くか」


 「多分船がある。それを使うしかない」


 「船?空に?」


 「空中を自由に移動出来る船がある。ここに住んでる人たちはその船で移動してる」


 「そりゃすごい」


 技術進歩がすごいな。現世よりも発達してるんじゃないか。

 地上の世界はどんな光景なんだろうな。楽しみになってきた。

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