第4話 田舎の祭り

 誰もないのかと思っていたけど、そんなことはなく、若い人もぽちぽちといる。

 白山神社の前には露店が数軒だけ出ている。

 焼きそば、たこ焼き、綿あめかな。

 どれも集落のおじいちゃん、おばあちゃんが運営しているようだった。


 神社の周りの道にはずらっと赤い提灯が釣り下がっていて、ライトが灯っている。


「いい雰囲気。小説に使えそう、秀ちゃん?」

「めっちゃ使えそう」

「和風ファンタジーなの?」

「うんにゃ、異世界ファンタジー」

「世界観あうの?」

「え、九尾の狐とか定番なんだ」

「へぇ」


 異世界ファンタジーでも和風ものが登場することはある。

 他にもヤマタノオロチとか稲荷の狐とか。

 一緒に神社仏閣も登場したりする。


「秀ちゃんだよね? ほら、焼きそば」

「え、お金」

「んなもんはいいって、ほら」

「ありがとう、ございます」


 集落のおばあちゃんだ。小さいころに遊びまわっていたので面識があるらしい。


「まだ小学生だったもんねぇ、覚えてないかぁ」

「ええ、すみません」

「ほら、こっちたこ焼き、明日香ちゃんも」

「あれ、私も名前」

「みんな二人のことは知ってるよ、なぁ」

「そうだそうだ」


 たこ焼き、綿あめもいただいてしまう。

 なんだか非常に申し訳ない。


「もうみんな、子供も独立して、孫もいたりいなかったり」

「遊びに来てくれるうちも減ってねぇ。秀ちゃんと明日香ちゃんはラブラブで有名だったから」

「そうだったんですか」

「あはは」


 ラブラブだったらしい。俺たち。

 なんだか昔の俺たちを再発見されたみたいで、恥ずかしい。


 神社の石段に座って、せっかくなので焼きそばとたこ焼きをいただく。


「美味しい」

「なぁ、こういうところって妙にうまいよな」

「うん」


 派手な打ち上げ花火とか、こんな田舎にはないけど、温かい人たちがいる。

 花火はいいんだ。心の中で打ち上げればいいから。

 それは東京の思い出だけれど、明日香と何度も行ったことがある。

 ここだけの思い出。赤い小さな提灯の列。

 白い大きな蛇の神様は俺たちを見てくれているのだろうか。


 ちゃんと境内を通って本殿の前に行く。

 どうせだからお参りもしていこう。

 小さい頃にも来たことがある。まったく変化がない。

 苔むした石。素朴な木組みの本殿の奥には鏡があるのを知っている。


 パンパン。

 手を合わせて、お参りをする。


「なに祈ったの?」

「ないしょ。明日香は?」

「絶対、秘密」


 ちょっと俺の顔を見たかと思うと頬が赤くなる。

 何考えているのやら。

 俺、俺はいいんだよ。無心で祈るタイプだから。

 また明日香と一緒にきたいな、などと思ったわけじゃないぞ。


 集落の人もぼちぼちいる。

 でも多くがおじいちゃんおばあちゃんだ。

 それから若い人がぽつぽつという感じ。

 小さい子はほとんどいない。


「やっぱり少子高齢化なのかな」

「だよね」


 しんみりと二人で道を戻る。

 日は沈んで、もう少しで真っ暗になる。


「はやく戻ろう」

「うん」


 どちらともなく手をつないで帰り道を進んだ。

 なんとなくそんな気分だったから。


「ただいま~」

「おかえりなさいぃ」


 なんとか真っ暗になる前に家に戻ってきた。


「食べてきた?」

「あ、はい。夕ご飯ありました?」

「うんにゃぁ、食べてないならお茶漬けでも出すけど」

「大丈夫です」

「ありがとうございます」

「そっかそっかぁ」


 おばあちゃんも事情を知っているようでニッコニコだった。

 こりゃ先に予定が組まれていたな。

 俺たちを歓迎してくれるのが集落ぐるみなのだ。


「部屋ないから、一緒の部屋でいいよねぇ?」

「え、あ、はい」

「はい……」


 昔は俺の父親とその妹の部屋だったという和室に布団を二組敷いてもらった。

 順番にお風呂に入った。

 この家のお風呂は自慢のものでかなり広い。


「いい湯だったぁ」


 ほっかほかになって出てきた明日香は大変満足そうな顔をしていた。


「よかったか?」

「うん。毎日入りたいくらい。えへへ」


 無理なことを知っていて、でも我慢できないみたいな意味だろうか。

 俺もお風呂にさっと入る。


「おかえり……」

「ただいま」

「お風呂どうだった?」

「うん。相変わらず広いな。のびのびできたよ」

「よかったね……」


 さて俺たち、二人。

 一緒の布団ではないが、並んでいる。

 その事実を目の前にすると、少し緊張するのは明日香と一緒だ。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


 お互いぎこちない動きで布団に入る。

 なんだかこういってはアウトなような気がするが、新婚みたいで。

 妙に気恥ずかしいというか、間が持たないというか。


「寝ちゃったか?」

「バカ。寝れないわよ」

「だよな」

「あはは」


 さて二人して緊張しながら途方に暮れる。

 すでに電気も消して、部屋は暗い。

 でも明日香の気配がするのだ。

 もちろん明日香も俺の気配を感じているんだろう。


 しかしそんなこんなでも、気が付くと眠れるものなんだなという。

 俺たちは眠りについたらしい。


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