第9話 <ラブラブピュアハートASMR告白大作戦>始動。



 休日が明け、だるいだるい月曜日が始まった。


 休日は、ずっと星霜 冷の配信を見ていた。


 最近はメンヘラ系のシュチュエーションボイスばかりだったが、新しく上がった動画は原点回帰の清楚系だった。


 昨日の夜も、結構夜更かしして動画を漁ってしまったので眠かった。


 俺は電車で寝ることにした。


 電車に20分くらい揺られた後、駅を降りて、10分くらい徒歩して学校に着いた。


 いつもと変わらず退屈な一日が始まるのだった。


 授業が終わり、今日はもう眠いので、家に帰ってすぐ昼寝しようと思い、屋上には立ち寄らず、帰ることにした。


 そんな時、俺のスマホが鳴った。


『あの、少し話したいことがあるので、屋上来てくれませんか?』


 それは雪本からのRISEだった。


 雪本から、屋上に誘ってくるなんて、珍しいこともあるもんだなと俺は思った。


 とりあえず、俺は放課後、屋上へ向かった。


 いつもの屋上に着くと、雪本はもうそこにいた。


「こ、こんにちは」


「お、おう。で、なに?お前から呼ぶの珍しいな」


「そ、その、ハーフについてどう思いますか?」


「ん、ん?急にどした?」


「い、いいから答えてください!」


「べ、別にどうとも思わないけど」


「そ、そうですか。良かったです」


「ていうか、雪本って、ハーフなの?」


「いえ、、私は、クォーターです。フィンランドとの」


「そうか。クォーターなのか。通りで一般人と作りが違うわけだ……」


 雪本の銀色の髪と、琥珀色の目や白い肌、整った目鼻立ちは遺伝からくるものだった。


「何か言いました?」


「いや?なんでも」


「あと、もういっこいいですか?」


「今日はどうした?めっちゃ質問するじゃんか」


「べ、別にどうもです」


「ま、俺ばっかりいつも質問してたしな。こんな日があってもいいか」


「その、あくまで参考として、なんですが、」


「うん」


「あなたは、どんなシュチュエーションのASMRが好きですか?キャラの特徴とか、好みを教えてください」


「あー、そうだな。俺は、声が良ければなんでもいける口だからな。これと言っては。その人の声によって似合う似合わないあるしな」


「じゃあ、星霜 冷ならどうですか?」


「星霜 冷なら、そうだな。やっぱり清楚系幼なじみキャラじゃないかな?普通に幼なじみが急に意識し始めて、テンプレ的なツンデレでいいと思う」


「なるほどです。ありがとうございます」


「では、さようなら」


「え?それだけ?」


「は、はい。それだけです。では」


「お、おう」


 そう言って、雪本はその場を去ろうとした時、こちらへ振り返った。


「今日の動画、楽しみにしててください」


 雪本が、イタズラ少年のような笑顔を浮かべてそう言って、また踵を返して、帰って行った。


 雪本が初めて俺へ見せた表情だった。


 今日の星霜 冷の動画はどんな動画が上がるのだろう。俺のさっき言った清楚系幼なじみのシュチュエーションだろうか。とにかく、楽しみだった。


 ◇


 俺も家へ帰り、星霜 冷の動画アップロードを今か今かと待ちわびていた。


 そして、午後9時頃、動画は上がった。


 タイトルには、高嶺の花の清楚系美少女JKがなぜかからかってくるというものだった。


 幼なじみのキャラと期待したが、今日の今日言ったばかりなのでまだ動画は取れていないのだろう。


 清楚系は最近また始めてるみたいだしたまたまみたいだな。


 なら、雪本はなぜ、楽しみにしてと言ったのだろう。


 とりあえず、真意を確かめるためには、動画を再生だな。


 俺は、そう思って動画再生のボタンを押した。


「おはよう、みつるくん。君、髪型変えた?今日の髪型も似合ってるよ。ふふふっ」


 え?みつるくん?


 いつも、モデルの名前はしょうたで固定だったのに、急にみつるだって?


 俺のと同じ名前じゃないか!!!!


 これは、いい。


 星霜 冷に、、直接名前を、呼ばれるなんてなんで心地の良いことか。


 これか、雪本が楽しみにしていてということは。


 それにしても、なぜ急に俺のために?意味がわからなかった。


 そういえば先週も、急に態度がよそよそしくなって、俺の質問にも上の空だったな。


 もしかしてだけど……


 俺のことが、好きになったとか?


 いや、雪本の事だ。あんなにモテるのに俺を好きになるわけないがないだろう。


 むしろ俺は嫌われる方だ。

 考えて見ればわかる。俺はあの時、古参リスナーである道であると気づかれた、認知されていたのだ。


 星霜 冷からしたら、やたらコメントしてくる気持ち悪い粘着リスナーとしか思っていないだろう。つまりは、雪本もそう思っているのだ。俺を好きになる要素がない。


 だからおそらく、彼女なりの、おちょくりなのだろう。俺のからかいへの仕返しだ。


 やるな……雪本……


 確かにこれは効いたぜ。


 星霜 冷に名前を呼ばれるなんて……


「みつるくん、、好きだよ」


 シュチュエーションボイスは終盤に入り、ヒロインが主人公のみつるに告白した。


 あああ最高すぎるぅぅぅぅぅぅぅ!!!!


 こんなに心を揺さぶられたのはいつ以来だろう。


 よし、久しぶりコメントでもしてやるかと俺は思った。


『新作動画ありがとうございます。最高のシュチュエーションボイスでした。俺の名前もみつるなので』


 こんなもんか。


 再生が終わった。俺はまた、再度、再生ボタンを押すのだった。


 <雪本 雪菜サイド>


 あ、道からコメント来てる。


 私はお風呂あがり、部屋で道から、並木くんからコメントが来ているのを気づいた。ドキドキして内容を見ると、


『新作動画ありがとうございます。最高のシュチュエーションボイスでした。俺の名前もみつるなので』


 と書かれてあり、最高に嬉しかった。


 彼も、私のことを少しは意識してくれただろうか。


 <ラブラブピュアハートASMR告白大作戦>はまだまだ始まったばかりだ。1回のシュチュエーションボイスで終わらせるわけが無い。今日の動画は好きだよという告白セリフだけの簡素なものだ。


 もっと、並木くんを好きになった理由とか、具体的に想いを伝えて言って、彼に伝わるようにしよう。


 私の計画はまだまだこれからだった。

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