48話 宣戦布告

 今朝の夢で、アランさんの過去を知った私。




 心の奥底がモヤモヤしている中、ウィザード・セクト候補試験の最終試験に臨む。










 ……そのはずだった。







───廊下




 マリアンヌたちと共に、朝食を取ろうと、食堂に向かっていた。




 その途中、ファリス寮と食堂が繋がる廊下で、ファリス寮の生徒らが集まっているのを発見した。




 私たちは、そこに駆け寄ってみると、影の騎士シャドーナイトのフィリス・ライアンと歌の騎士メロディナイトのアリア・グレイナが、誰かを探している素振りをしていた。




「フィリスさんとアリアさんだ」




 ボソッと呟いた瞬間、フィリスさんと目が合い、アリアさんに肩を叩き、こちらに目線を向けた。




 そして、アリアさんとフィリスさんが、私の目の前に来た瞬間、フィリスさんに手を掴まれた。




「え、えー!?」




「ちょっと借りるよー!!」




 何故か私は、そのままフィリスさんに何処かへと、連れてかれてしまった。




 その光景に、ファリス寮生(主に女子)の黄色い歓声が上がったが、私とフィリスさんは、完全無視をしたのであった。







───教会




 フィリスさんに連れられた場所は、騎士ナイト部の部室である教会だった。




 中に入ると騎士ナイトの方々と、レオン先輩とネオ先輩、アノールにエレノア先輩。




 そして、ルイさんとブライアン校長が集まっていた。




 何やら深刻そうな顔をしていたアノールは、私の顔を見るなり、安堵の笑みを浮かべながら、こちらに駆け寄ってきた。




「ルナ!」




「アノール? どうしたの? 皆さんも……」




「フィリス! この子たちも、連れてきましたけど」




 私の後に、アリアさんとセドたちが教会の中に入ってきた。




「うん。この子たちにも手伝ってもらおう。いいよね、アリエス?」




「えぇ。では、皆さん。どうぞ、お座りになってください」




 アリエスさんに言われるがまま私たちは、椅子に座ると、フィリスさんが口を開いた。




「ウィザード・セクト候補試験が、中止となったのを知っているかい?」




 ん? ちゅうし?




「中止って、あの中止?」




「それしかないだろ……」




 隣に座っていたセドは、呆れながら言った。




「彼の言う通りだよ。中止になった理由は、セフラン王国周辺で、魔物が大量発生してしまったこと。そのせいで、僕たちが派遣されることとなったのさ。


 そこで1つ。ある事件が起こったんだ。この場にいない2人が、試験を受けた後、行方不明となってしまったんだ」




 私は周りを見回すと、部長のルーカス部長とユノ先輩がいないことに気づいた。




「えっ、 ユノ先輩とルーカス部長が!?」




「うん。それで、この魔物の大量発生と、何か関係があるんじゃないかって思った僕たちは、君たちにこのことを伝えるため、呼んだのさ。何か知っていることが、あれば教えてほしい」




 あの2人が行方不明になるって。




 しかも、魔物の大量発生……。一体、この国では、なにが起きているんだ?




「確か、ユノがルナの首を絞めたとか?」




 突然、レオン先輩があの時、その場にいなかったのにも関わらず、私がユノ先輩に、首を絞められていたことを、知っていることに対し、目を見開き驚いた。




 もしかして…と、私は左隣にいた、アノールを睨んだ。




 アノールは、目線を横に逸らした。




「す、すまん。一応、レオンに言った方がいいかと……」




「ルナさん大丈夫でしたか!? 妹が迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!!」




 初めて、この話を聞いてしまったエレノア先輩は、椅子から立ち上がり、頭を下げた。




 私は慌てながら、エレノア先輩に声をかけた。




「私は大丈夫ですから! ユノ先輩のこと、気にしてあげてください!!」




 エレノア先輩にそう言うと、どこか辛そうに俯き、ユノ先輩のことについて、静かに話し始めた。




「そうね……。ユノとは、学園でも話したことがありません。幼い頃から私とユノは、引き離されていましたから」




「どういうことだ?」




「アノール。今から教えます。私が10歳、ユノが9歳の頃。父は病で倒れ、母は父を失ったことで、私ではなく、ユノに対して当たりが強くなってしまいました。父に似ている私。母に似ているユノ。おそらく、母は自分に似るユノが、気に入らなかったのでしょう。


 臆病者に似た、自分と同じ性格であるユノを。


 父に似て、魔力量も多く、固有魔法も使いこなせる私を、母はだと、私を贔屓ひいきしてきました。


 ユノは、贔屓ひいきされている、私のことを気に入らないのでしょう。


 ですが、私はユノのことをとして愛しています。家でも隔離され、ユノの部屋に行くのもダメでしたから、あの子とは姉妹として過ごした時間は、父が生きている時しかありませんでした」




 エレノア先輩は悲しそうな表情を見せ、唇を強くかみしめた。




「そうだったんだ…」




「私に恨みがあるのかもしれないですが、ユノは。何かあれば、ユノを救いたいと思っています」




「分かったよ。では、ユノ君のことは、彼女にお任せしようか。それで、ルーカス君について何か知っていることはないかい?」




 フィリスさんは、続けて私たちにルーカス部長について訊ねてきたが、何も知らない私たち1年と、エレノア先輩とネオ先輩にアノールは首を振った。




 すると、レオン先輩がルーカス部長について話し始めた。




「俺とルーカスは、中等部からの仲でよ。あいつのこと知ってるんだ。あいつは、母親を亡くしているんだ。父親はいなく、シングルマザーとして1人で、ルーカスを育てていたんだよ。


 んで、ルーカスが5歳の時、母親が家の中で、血まみれで亡くなっていた。


 母親を殺したのは実の父だった。グレイナのファミリーネームは母親のもんで、グレイナ家は貴族でよ。ルーカスの親権を欲しがっていた父親は、地位もあったが、酒やギャンブルに溺れていたため、親権は母親のもんになっていたんだ。


 だが、それを許せなかった父親は、ルーカスの母親を殺害した挙句、自作自演をし、ルーカスの母親に罪を擦り付けた。


 そのせいで世間は、ルーカスの母親を罪人扱いし、墓さえも作られはしなかった。


 その後、父親はルーカスの親権を勝ち取り、あいつを奴隷のように扱った。でも、ルーカスは父親から何とか離れ、グレイナ家をもう1度作り上げることに成功した。


 あいつ、やたらと頭がいいからな。当主の器が覚醒したんだろう。


 それで、父親の行方は知らないし、ルーカスの野郎は感じだし」




 レオン先輩の話を聞いていた、アリアさんは小さく『えっ』と声を出した。




「私は、その頃この学園に居ましたので、家のことは何も……。母が亡くなったことは知っていましたが、罪人扱いをされた話や私に被害がなかったのは…」




学園こちらで、隠し通していました。アリアさんに被害がなかったのは、学園側で貴女の個人情報を保護していたことにより、世間には認知されていません。そして、すぐにこの話題が消えていったおかげで、騎士ナイトとなっても、世間では騒がれずにいたのです」




 ルイさんは、アリアさんに事実を打ち上げた。




「学生の間は、私たちが責任をもって育てる義務がある。そのため、この事実を、君と生徒らには伝えなかったんだ」




 ブライアン校長は常識のある人間だと、確信した。




 しかし、ルーカス部長の過去が重い。




 ユノ先輩の過去も重すぎる。




 2人の共通点がで、似た者同士な気がする。




 そうなると、この事件は……。




「皆さん。お揃いで」




 突然、教会の扉が開いた瞬間、聞き覚えのある声と人影が見えた。




「ルーカス部長! それにユノ先輩まで!! 良かった~。無事でなによりです!」




 安堵していると、ルーカス部長は私の方に目線を向け、細い瞳を開き、翡翠色の瞳で私を捕らえた。




「ルナ・マーティン。貴女に、宣戦布告します。次の満月の夜、この世界に復讐します。魔物を解き放ち、原初ノ神カオスを召喚し、世界を破滅に追い込みます。止めてみてください。レオン、貴方たちも僕たちを止めてみてください。できればの話ですがね。ユノ行きますよ」




「うん。姉様……待ってる」




「ユノッ!!」




「ルーカス!!」




 ルーカス部長とユノ先輩は転移魔法で、何処かに去って行ってしまった。




 エレノア先輩は、この事件に関わっているユノ先輩を知り、ショックを受けてしまったのか、瞳が揺らぎ、動揺を隠せずにいた。




「エレノア…」




「アノール。ユノが……」




「分かっている。大丈夫だ。なんとかする」




 アノールは、エレノア先輩の背中を擦った。




「次の満月って、いつだ?」




「たしかね~。1週間後だよ~」




 セドはマリアンヌに尋ねると、1週間後だと答えた。




 って、1週間後!? 




「マジか!!」




「ルナちゃん。マジだよ~」




「アリア」




 混乱している中、フィリスさんはアリアさんに声をかけた。




「大丈夫よ、フィリス。ルナさん、力貸してもらえますか? 弟を止めるために。世界を救うために」




 アリアさんは、真剣な眼差しで私の答えを待った。




 私は力強く頷いた。




「勿論です」




「それなら、アランにも手伝ってもらいましょう」




 ここにきてルイさんが口を開いた。




「アランさんに?」




「えぇ。アランだったら、何か対処方法を知っているのかもしれません。伊達に長年、魔術師をやっているわけでもありませんし。それに、1週間の猶予もありますし、今の発生している魔物を退治しながら、強化週間にしましょう。魔法の強化週間。実際に騎士ナイトの皆さんに見てもらって、実戦を積みましょう!」








───こうして、ルーカス部長に宣戦布告された私たちは、1週間後に向け、魔法強化週間として魔物討伐をすることとなったのであった。

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