40話 セドとアノール

───1年控室




 ユノ先輩に首を絞められていた所を、アランさんとアノールが助けに来てくれて、アノールがユノ先輩を何処かへ連れて行った後、私はアランさんと少しだけ言葉を交わし、自然と意識を失った。




 そして今、目を覚ましたら……。




「起きたか」




 セドの膝の上で、寝ていたのだ。




「セド君よ。なーぜ、あんたの膝の上で寝ているのかを教えてくれませんでしょうか?」




 早口で事情聴取を始めた私。セドは少し戸惑いながらも、この状況を話し始めた。




「じじ……アランさんにお前のこと頼まれて、寝かせる場所がなかったから、レオナとマリアンヌが座っている椅子をくっつけて、俺が枕代わりだ」




「うん。出来れば、マリアンヌが良かった!!」




 身体を起こして叫ぶが、マリアンヌ本人や姿はどこにもなかった。




 それに、レオナとアランさんの姿も。




「アランさんは、校長に会いに行った。マリアンヌとレオナは、お前のために飲み物を調達しに、売店へ行っている」




「そう……」




 私は体を起こそうとしたが、首がピリッと痛み、顔を顰めた。




「まだ、大人しくしておけ。一応、アランさんが応急処置をしてくれたが、しばらく痕は消えないだろうな」




 首元を触ると、包帯が巻いてあるのを気付いた。




「もしかして、アランさんから聞いた?」




 私はセドにさっきの出来事を聞いたのかと尋ねると、真顔で『おう』と返されてしまった。




 思わず、右手で顔を覆った。




「まいったなぁ~」




「次、隠そうとしたらゆるさん。というか、もう許す気ないからな?」




「あら、ルナちゃんがお目覚めじゃないの!!」




 セドが半ギレしている所に、レオナとマリアンヌが人数分の飲み物を抱え、控室の中に入ってきた。




「レオナ!! マリアンヌー!!」




 マリアンヌに飛びつくと、嬉しそうに私の頭を撫でてくれた。




「ルナちゃん大丈夫~?」




「うん! 心配かけてごめんね」




「ルナちゃんが、無事ならそれでいいの~!」




「そうよ! でも、あまり無理しちゃだめよ?」




 レオナはそう言って、私に水を渡してくれた。




「はーい。それで、ユノ先輩はあの後どうなったの?」




「心配ない。医務室で寝かせている」




 いつの間にか、扉に寄りかかっているアノールが教えてくれた。




 いや、いつからいたねん。気づかんかった。




「アノール先輩」




「セド、こいつ見ていてくれて感謝する。ユノは精神的に不安定なんだ。普段は良い奴なんだが、姉であるエレノアが関わると、気が変になってしまうことがあるから、気をつけろって言うのを伝え忘れていた。でもまぁ、いい経験になっただろ?」




 アノールの言う通り、例え、部員同士や先輩後輩の関係であろうとも、深く関わろうとすれば、痛い目に遭うことは確かだ。




 生前では、これを恐れていたからね。




 でも今は、生前のよりも人と関わることに、ためらいもなくなった。




 それに、誰かのために生きるという意味も見つけた。




 だから私は……。




「良い経験になったけど、私はユノ先輩のことをもっと知りたい。だから、これからも関わるよ。例え、首を締め付けられようが、心臓に穴をあけられようともね」




 私はアノールに伝えると、ため息をつかれた。




「はぁー。良いが、無理はするなよ? 危険を感じたら、すぐに魔法で対抗しろ。自分の身は、自分で守ってくれ。約束できるな?」




「うん」




「それなら良い。それで、次の試合はセドだったな?」




 アノールに名前を呼ばれたセドは、私に掛けていたローブを椅子から取った。




「はい」




「レオンに勝て。そんでもって、レオンとの勝負を楽しんで来い。1度手合わせをしているお前なら分かるが、魔道具を使用してくる戦法だ。弱点を突かれたくなければ、一瞬で勝敗をつけれる魔法を使え。俺からのアドバイスだ」




 セドの頭に手を置いた後、控室から出て行ってしまったアノール。




 そんなアノールの背中を見つめ、セドはどこか嬉しそうに口元を緩ませた。




「あらま、セドちゃんが笑ってるわ!」




「ホントだぁ~」




 レオナと2人で、にやつきながら笑っていると、セドに頬を抓られた。




 しかも、私だけ。




「うるせえよ。まぁいい。それよりも、ルナ」




 セドはファリス寮の白いローブの裾を腕に通しながら、こっちを見てきた。




「なに?」




「ケイン先輩に勝ってくる」




「うん! 必ずね!」




「あぁ」




 ローブを身に纏ったセドは、私の頭に手を置き、控室から去って行った。




 セドの背中を見つめ、試合が始まるであろう、モニターに目線を向けたのであった。

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