第5話 危険が危ない
今日はいつもと違い、真羅さんと並んでコタツに足を突っ込んでいた。
私の小さな手には黒くて硬いものが握られ、指先はクリクリ小刻みに動かしている。
「ちょ、やめて真羅さん! 離して! いやぁああ!」
「そんな亀みたいなレバガチャじゃ抜けれないよ。はいゴリダン〜受け身も取れてませんねぇ」
「鬼畜ッ! 鬼ッ! 不能男ッ‼︎」
「……今さらっとナイフを突き刺されたよ。はいウンソーコング。完全試合だよ」
「ひぐっ……うわああん!」
そして盛大な私は虐められていた。ゲームが繋がれたテレビ画面では、憎たらしいゴリラが挑発的なポーズを私に向けている。
「こ、こんないたいけな子供にも容赦しないなんて……真羅さんの前世は魔王四天王のザンギャークよ!」
「残念だけど子供は守備範囲外だからね。痛む心も持ち合わせてないんだ」
ザンギャークより残虐だ。あいつは子供に手を出さないって有名だったのに。むしろ子供と動物に優しい一面を見せる姿からギャップ萌え魔族って人気だったのに。
――その時、ピンポンというインターホンの音がこの平屋に響いた。
「おや、ネットスーパーかな? 敗北者君、対応してくれるかい?」
「クッ……いつか絶対やり返して弱々おじさんって馬鹿にしてやる!」
(うん、分かった)
「本音と建前が逆だよ」
(なんで心を読んでるの?)
「脳内に直接響いてきてるんだ」
「やはり君は天才だ」
(やはり君は天才だ)
「どこの海王だい?」
――そんなやり取りを一通り終え、私は玄関に向かった。
だけどこのまま出るわけにはいかない。一応真羅さんと約束しているのだ。
(まったく。体裁を気にするんだったら無精髭でも剃ったらいいのに)
そして下駄箱の上に放置してあった杖を持ち上げ、軽く魔法力を込める。
「カワルン(変身魔法)」
一応壁にかけてある鏡を確認。バッチリだ。
「はーい、今開けまーす」
ガラガラと引き戸を開ける。そこには見覚えのある配達員さんが立っていた。
「奥さん、今日も綺麗ですね。……あ、荷物のお届けです」
「えへへ、ありがとう。中に運んでくれる?」
「ええ、喜んで!」
顔を赤らめる若いお兄さんに微笑みかける。するとそれに応えるように、お兄さんはテキパキと大量の食料や日用品の詰まったビニール袋を玄関に並べてくれた。
「お疲れ様。いつも助かるわ」
「はい! あのー、奥さん。もし良ければ僕とナイン交換し……」
「そういうのは私のいないところでやってくれるかい?」
お兄さんが何か言いかけた時、真羅さんの声が聞こえた。振り返るとすぐ後ろに真羅さんが呆れた顔で立っていた。
「し、失礼しました! それじゃ僕はこれで!」
そんな真羅さんを見て慌てて去っていくお兄さん。何を言おうとしてたのか気になってしまう。
「やれやれ、最近の若いのは」
小さくため息を吐く真羅さんに、私は首を傾げてみせた。
「何があったの?」
「…………いや、なんでもないよ。それより早く元の姿に戻ってくれ。その姿は慣れない」
「うぐ……モドルン(無効魔法)」
少しショックだ。未来の私はそんなに見るに耐えないんだろうか。
荷物を抱え、居間に戻っていく真羅さんをちょびっとだけ恨めしく思う。そんな私の耳に、小さな呟きが届いた。
「…………やれやれだよ」
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