スライムテイマーだった少年は、初恋を拗らせて人類王になる。

たってぃ/増森海晶

第1話

【ウィル。私たちは一蓮托生よ】

【イチレンタクショウ? なに、その言葉?】

【うーん、生きるのも死ぬのも一緒で。死んだあとも、また会いましょうって意味よ。……うん、たぶん。って、おもっ!】


 君はおびえる僕に手を差し伸べて、一緒に生きて死んでくれると言ってくれたね。

 その後で自分の言葉に驚いて、身をよじりながら言葉を選んでいる姿が、僕はとても嬉しかったんだ。


――あぁ、だから。


わたくし、キルクルス王国 準王族 バンテッド公爵家が長男【ウィリアム・Vヴォーン・バンテッドは婚約者である、カートレット伯爵家が長女【シャーロット・カートレット】と……」


――この先の言葉を言いたくない。

 こんなことのために、僕はどん底から這い上がって来たんじゃない。


「婚約破棄し……」


――この瞬間、僕の中で大切な思い出が砕け散る。


「聖女【メアリー】を妻とします」


 言葉にして悟った。

 僕はまたどん底に突き落とされたのだと。


 わああああああああぁぁっ!!!


 僕の宣言に歓喜の雄叫おたけびが、沸騰した湯のように湧きあがる。

 玉座に座るキルクルス国王と王妃は安堵の吐息を漏らし、僕の隣でしなだれかかる聖女は笑い、なにも知らない周囲の人間は、僕の気持ちなんてそっちのけで万歳を三唱する。


「どうだ、この悪女め。ざまあみろっ!」


――やめろ、シャーリーに触れるなっ!


 兵士に取り押さえられている愛しい人――シャーロット・カートレットを、調子に乗った兵士が乱暴に後頭部を掴んで、血のような赤い絨毯へそのまま擦り付けた。


「オラっ! どうだ、これが底辺の味だよ」


――っ!


 僕は怒りで気が狂いそうになった。

 君の実力なら、この兵士をあっという間に片付けることができるのに。

 切り抜けることも、脱出すこともできるのに。

 ぞうきんのように顔を擦り付けられて、君のピンクの瞳から涙があふれてくるのが見えた。しかも、前髪が掴み上げられて、プラチナブロンドの毛が数本、羽毛のように絨毯へと落ちていく。


「さぁ。なんか、言い残すことがあるだろう?」


 無理やり、僕へと向けられた君の顔。

 白くて小さな顔には、涙であふれる薄ピンクの瞳に花弁はなびらのような唇がわなないている。形の良い眉がハの字を描き、長いまつ毛を震わせて、装飾の少ないパールピンクのドレス姿が儚くも可憐で、世紀の大悪女というよりはむしろ。


「チッ。ねぇのかよ。泣けよ、喚けよっ!」


 苛立った兵士の鉄靴サバトンがシャーリーの腹部にめり込んだ。

 骨が折れる音が響き渡り、唇の端から血が流れて絨毯を汚す。


……っ!


 バキッ。

 ドカッ。

 ビキッ。

 

 調子に乗り、暴行を続ける兵士を誰も止められない。止めることはできない。

 彼女は悪女だから。

 なら、原因を作った僕も裁かれるべきなのに。

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