第20話 天上界11日目 その2 神様ってトイレに行かないんですか?
「あの、問題とされた世界はどうなるのですか? 取り潰されるとか?」
「人間が住んでいるのだから、すぐには取り潰したりしないわよ。この前行った第六五〇界も、時間をかけて徐々に人間や動植物を衰退させていった結果ああなっているのよ」
「とすると、地球はすぐにお取り潰しになるんじゃないんですね」
「今は様子見ね。このあとの人間の振る舞い次第でどうなるかわからないけどね」
「で、俺の行く世界の話なんですけど」
「もう少し元の世界の心配をしたらどうなの」
「俺は死んじゃってますからね。心配しても戻れないですし」
「それもそうだけど、元の世界は圭ちゃんたちに頑張ってもらうしかないわね。で、どこまで話が行っていたかしら?」
「中世という時代のヨーロッパに行きたいというところです。科学文明が発展する前の世界に行きたいっていう意味です」
「あなたが魔法って言い出すから話がそれたのよ。魔法について論議しだすときりがないから、魔法うんぬんはいったんペンディングにするわ。いいわね」
俺も自分のほしいスキルは考えていなかったので、ひとまずいいか。
「はい。魔法とかのスキルについては、後日改めてじっくり論議しましょうね」
あ、あれ? これじゃ今日中に転生終わらない? ペンディングって後日って意味じゃなかったのだけれども。
「で、あなたの望む文明は、銃や大砲がなければそれでいいのね」
「いや、それじゃどこまで昔になるかわかりませんよね。中世って言いましたよね」
「だから、中世っていつなのよ」
「モニア様、また難しい問題をぶっ込んできましたね……ってさっき言いましたね。
えっと、あれ、中世っていつからいつまででしたっけ」
「日本史Aしかやっていない私に聞いても無駄よ。なんか中くらいの時期じゃないの?」
「そんないい加減な。ねえモニア様、天上界にパソコンってないんですか?」
「パソコンいじっている神って想像できる?」
そもそも私たちには神力があるから、そんなもの必要ないわ。
「できません。スマホでもいいですけど。検索すれば一発かなと」
「スマホもないわよ。あ、スマホを持って転生しようということ?」
「いえ、それはもう先人がいるので」
「そんな人転生させた記憶はないわ」
「それはともかく、この前言った木組みの家が作られた時期ってことでいいです」
それじゃあ今日ここまでの話は何だったのよ。この前の話で十分だったじゃない。
「じゃあ、銃や大砲はないけれど、木組みの家が作れるくらいの時代でいいわね」
「あ、でもいらないものならあります」
「いらないもの? それは何?」
「疫病です。特にペストです」
「ペストは近代日本でも流行があったから少しは知っているけど、中世ヨーロッパではそんなに流行したの?」
「十四世紀の大流行では、ヨーロッパの三分の一、だいたい二千万人から三千万人がペストで亡くなったそうです」
「それは大変な犠牲者ね。そうしたら、そういう世界で、あなたが今の知識を駆使してペストから人々を救うことはできないの?」
「残念ながら、俺には医学の知識は全然ないので無理です。むしろ、神様の力でなんとかならないのですか?」
これは私たち神にとっても痛いところなの。
「疫病の発生は創造担当でも大きな問題になっているらしいの。ただ、細菌とかウィルスの世界にまでは神の力は及ばないし、人間の科学知識を一足飛びに発達させて疫病を抑えることは、その世界にいろいろ歪みを生じさせてしまうらしいわ」
「それならば、それこそ魔法でなんとかならないものですか?」
「さっき言ったことにも関係するけど、魔法で疫病を直してしまうと、医学とか衛生学とかを発達させる必要がなくなってしまうの」
「そうしたら、疫病の存在は覚悟で転生するしかなさそうですね」
「それはあなたが元いた世界でもそうでしょ。申し訳ないけど疫病に対しては、人間の力で立ち向かうしかないのよ」
こればばっかりは本当に申し訳ないわ。
「あの、モニア様、トイレ」
「トイレは休み時間のうちに行っておきなさいって言ったわよね。しょうがないわね、さっさと行ってきなさい……って、私は学校の先生じゃないし、そもそも今のあなたはトイレに行く必要ないでしょ」
「モニア様が教師の格好で講義をしてくれたのが、遠い昔に思えますね」
誰のせいだと思っているのよ。
「で、トイレがどうしたの?」
「衛生学で思い出したのですが、中世ヨーロッパの家にはトイレはなかったそうなんです」
「あれ、じゃあ、あなたの世界の中世ヨーロッパの人たちって、人間じゃなくて神だったのかしら」
「なんで発想がそっちへ行くんですか?」
「だって神はトイレに行かないから、そしたらトイレも必要ないわよね」
「神様ってトイレに行かないんですか? そうしたら神様って、体の作りは……」
あ、こいつ下ネタに話を持って行く気ね。殊勝さはどこへ行ったの。
もうつきあってられないわ。
「それ以上はダメ! また明日!」
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