第5話 その扉は開けちゃらめ!

「言葉については分かったけど、魔法はどうなのかな?」

「魔法……か。もしかしてヒロは使えるのか? それとも使いたいのかい?」


 村長に魔法のことについて尋ねると村長は俺に対し、魔法を使いたいのか、それとも使えるのかと逆に質問してきた。俺は既に空間魔法を使えるが、今は言わない方がいいと判断して「使えない」と答える。そして、村長に魔法が使えるようになりたいと頼むが、村長は「そうか」とだけ言って黙り込む。


「いや、そうじゃないよね? そこは『分かった。ワシに任せろ!』でしょうが! 何、納得して終わっちゃってるの?」

「いや、しかしな、そうは言っても、ここの村には魔法を使える者はいないぞ」

「え? そんなことないでしょ。だって、普通なら……」

「何をもって普通と言うのかな?」

「え? でも、ここは異世界でしょ? それなら、『剣と魔法のファンタジーの世界』だよね。ね、そうでしょ。頼むからそうだと言ってくれよぉ!」

「ん~困ったね。多分、ヒロが知りたいのは『ドカ~ン!』って感じの極大魔法なんじゃろ。だがな、さっきも言った通りここにはそんな物騒な魔法を扱える者はおらん。精々、指先に火を灯したりコップ一杯の水を出す程度じゃ「ソレだよ!」……へ?」

「いや、だからソレでいいんだって! だって、ソレも立派な魔法なんでしょ。ね、お願いだから教えてくれよォ~頼むよォ~」

「「「……」」」


 村長に魔法を教えてくれと頼み込むが、村長が言うには火魔法を使っての派手な魔法を使える人はいないと言われ、ウソだろと落ち込んだ俺だったが村長が言った『しょぼい魔法』もとい『生活魔法』レベルでも構わないから教えてくれと頼み込めば、村人三人の目が俺を温く見ていた。


「まあ、落ち着きなさい」

「教えてくれるのか?」

「どうどう、だから教えるのは吝かではない。だから、少しは落ち着きなさい。そんな不安定なままじゃ教えたとしても上手く扱うことも出来ないぞ」

「……分かったョ」


 村長に窘められた俺は少し反省し、その場で黙り込む。すると、村長が俺の手を取り「感じるか?」と言うが、俺はその言葉にゾッとし慌てて手を振り払う。


「あんた、何言ってんだよ! 俺にはそんなはない! そりゃ、女にモテたこともないし、付き合ったこともないけど……でも、男に走る気はサラサラないからな!」

「……何を言う?」

「え?」

「ワシはただ、単に『魔力の流れを感じるか』と聞いただけじゃろ」

「言い方!」

「はい?」

「だから、言い方ってものがあるでしょうが! いきなり、人の手を取って『感じるか?』って言われたら『ヤらないか?』って言われていると勘違いしてもしょうがないでしょうが!」

「何を言うか。ワシは妻帯者じゃぞ? それに同じ男なら、ワシにも選ぶ権利があるじゃろうが! だが、確かにヒロの言う通り言葉が足らんかったのも事実じゃな」

「でしょ? なら、最初っからやり直し! はい、どうぞ」

「……なんだか腑に落ちないが、まあええじゃろ。ほれ、左手を出せ。そして、今からワシが左手に魔力を流すから、ソレをちゃんと感じ取るんじゃ。分かったな?」

「うん、分かった。ったく最初っからそう言えばいいものを……」

「ブツブツ言わない。ほれ、手を出せ!」

「はいはい……ん?」


 村長の行動に悪寒がしたから『どういうつもりだ』と村長を問い詰めれば、単に魔力操作を教える手解きの為に俺の手を取ったと言うが、モノには言い方があると思います。誰だって男に手を取られ「感じるか?」と言われれば、不気味に感じるってば!


 そんな訳で改めて、村長と手を取り合い魔力操作の手解きを受ける。


「今、ワシの手から魔力を流しているが、分かるか?」

「ん~なんとなく……多分だけどね」

「ほぉ! やはりまれびとは違う様じゃの。ゴサックは一週間ほど掛かったぞ。のぉ?」

「村長、それは流石に言い過ぎだって」

「そうかな? 私も覚えているけど、そのくらいだったわよ。ふふふ、あの時のゴサックは『出来ない……』ってグズっていたものね」

「リノさん、言わないでくれよ」

「ヒロの邪魔じゃ、静かにせんか!」

「「はい……」」


 村長の手から伝わってくる微かな感触に神経を集中させると、なんとなくだけど『これがそうなのかな』ってのが分かってきた。


「多分、これなんだろうな」

「ふむ、自分の中の魔力を掴めたのなら、今度はそれを動かすことに集中してみるがいい」

「動かす?」

「ああ、そうじゃ。魔力の塊を感じられるたのじゃろ。なら、次はそれを動かすことに集中するんじゃ。いいな? 手を放すぞ」

「あ……」


 村長はそう言うと、俺の手を放す。そして、村長から流れていた微妙な魔力の痕跡はなくなり、俺は自分の腹の奥に感じる魔力の塊らしきモノに集中する。


「動け! 動けよ、この!」

「ふふふ、いくらまれびとのヒロと言えど、今度はそうすんなりとはいかないじゃろ。まあ、焦らずには「出来た!」げむ……ええ!」

「出来たってば!」

「いや、ウソじゃろ?」

「なんで? 出来たって言ってんじゃん!」

「ふふふ、まあ習いたての小僧によくある勘違いじゃろ。どれ、ワシの手に流してみるがよい」

「……」

「どうした? 早くせんか」

「また、手を繋ぐの?」

「やかましい! ワシだって好き好んでするか! いいから、早くしてみろ!」

「分かったよ。じゃあ、行くね」

「ふふふ、まあ出来ればの話しじゃがな……ん? こ、これは……いや、まさか……んんん、なんとも……ふっ……はっ……」


 村長が差し出した左手を俺は右手で掴むと、さっき感じた塊を少しずつ村長の左手に移すつもりで操作していると、村長の口から聞いちゃいけない声が漏れてきたので、俺はなんとなく村長から顔を背けるが、奥さんは両手で頬を押さえながら「きゃっ!」と呟いていた。


 もしかして俺は開いてはいけない扉を開いたのだろうか。


「も、もう、らめ……」

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