第9話
一章
マリちゃんとドライブ
その②
「あっ!アソコです!あの上からピョンって感じで乗っかったんですよ。あんなに上手くいくとは思いませんでした。運動苦手なわたしですが会心の一撃でした。」
犯行の一部始終を得意気に語る幽霊に
「もうダメだからな?ダメージ無いと分かっててもオーナーとしてはヒヤッとするんだよ。」
「ヒヤリハットですね、マボロシ商店街でしか買えないステキアイテム…わたしもまだ見たこと無いんです。でもヒヤッとさせるのは幽霊の大事なお仕事なんで何卒御理解御協力お願いします。」
「ソレ、ゴリ押しするからシッカリ付いて来いよ野郎共って事だよな?ヒヤリハットの回避スキルで無かった事にしていいか?」
「えっ?まさかもう持ってるんですか?マボロシ商店街には人生に疲れたピュアな人しか行けないはず…太助さんまだ若いのに中堅サラリーマンの様な悩みを抱えて日々を過ごして居るなんて!わたしでよければ全部吐き出しちゃって下さい。聞く事しか出来ませんけど」
「悪いが俺が今憑かれてるのはアンタだよ!ヒヤリハットなんて今時ドライバーはみんな装備してるぞ?
たまに忘れた奴が
危険な作業のお仕事の人達は会社から支給されてるし」
「そういえば太助さんの頭の上に薄っすらと紳士的な帽子が見える気がします。何と無くですが。わたしとの出逢いはキャンセル不可ですので宜しくです!」
無人の料金所で一旦停止し、ヒヤリハットを整えて
「じゃあ行くぜ?舌噛んで成仏すんなヨ、こっからはタイヤ限界まで攻めるからナ?紳士の時間は終わりだゼ!」
走り屋スイッチが入って横にカワイイ女の子を乗せた事で、ついいつもと違うモードにセットされてしまう。やっちまったかと思いマリをチラリと見やると何故か俺以上のドヤ顔で
「始まるんですね…見せてもらいましょうか、御先祖様のターボの性能とやらを!」
すっかりイケイケモードで雰囲気に酔っている様だった。これなら飛ばし気味でも「キャー怖いぃー!もうやだお家帰るぅー!」とかダダをこねる心配もなさそうだ。サービスでちょっとアクセルを吹かしてみる。ゴフォーッとアイドリングとは全く違う迫力の有るサウンドが木霊する。街中では中々出来ないフルスロットルは日本車離れした快音だ。前オーナーが吸排気系を全部交換したおかげでパワーだけで無くレスポンスも最高に仕上がっている。
「コレがカスタムカーなんですね。わたしのはノーマルだったから動物と魔物くらい違いを感じちゃいます!」
「カスタムしたのは全部前オーナーだけどな。外見はノーマルだけどMR2のネガを修正してキッチリ安心して攻められる様にしたって言ってたな。」
これ以上焦らしても仕方無い、出発するか。
「じゃあわたしカウントダウンしますね。じゅー、
きゅー、はーち、」
「イングリッシュでOK」
「レッツGO GO GOー!です!」
「唐突だなオイ!あーもう!行ってやんヨオラァー!」
俺はマシンをフル加速させた。なんか完全にこの娘のペースに乗せられてるな。LEDに交換されたリトラクタブルヘッドライトが明るく闇夜を切り裂き赤いテールライトがあっという間に暗闇に消えて行く。フルブレーキングから鋭いコーナリング、更に次のコーナーにフルスロットルで飛び込む。だが決して100%じゃ無い。偏屈な車屋のオッサンに公道じゃ必ずマージンを残せ、一つ先を考えて踏んで行けと念を押されている。助手席を見るとマリが前方に目線を釘付けにして「わたしは幽霊、もう死なない、こんなの平気…」
と口元をヒクつかせブツブツ言っている。
コレヤバいやつだ。俺はちょっとだけペースを落とした。
この娘確かにカワイイんだけど女の子って言うよりなんか弐狼みたいに旧友って感じなんだよなぁ。
さて、この後はドラテク談議に華でも咲かそうか。
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