交竜の魔法使い ルーカス

ゴットー・ノベタン

第0話 前日

 畑と石垣に囲まれた、とある村。

 一人の少年が石垣に背を預け、熱心な顔で本を読んでいた。

 歳は11歳ほどだろうか。傍らには鞄と、手彫りらしき木の杖が置かれている。

 本の表紙には、『はじめての魔法まほう』の文字。

 やがて彼は本を鞄にしまうと、杖を手に数歩、石垣から離れる。

 そのまま目を閉じ、幾度か深呼吸。

「すーーっ……はーーっ……むんっ……!」

 目は閉じたまま、杖を前に突き出し、険しい表情で唸り出す少年。

 そのまま1分……2分……よほど集中しているのか、額には汗が浮かび始める。

「んっ……ん゛っ……! ん゛ん゛~っ!!」

 空中を探るような杖の動きが、次第にブンブンと振り回す動作に変わる。

 眉間に深くしわを寄せ、顔を真っ赤にしながら唸り続けるが、さっぱり何も起こらない。

 そうして、10分ほど経った頃。

「ぷはぁっ……! はぁ……」

 目を開けた少年は、杖も体も、足元の草むらへと投げ出してしまった。

 視界一面に広がる青空。遠くから、放牧された牛の呑気な鳴き声が聞こえてくる。

「……明日、商人さんが来たら……新しい本が無いか、聞いてみよう……」

 荒い息でそう呟いた少年を、少し離れた丘の上から、

 一頭の、真っ白な竜が見つめていた。

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