11-6 第144話  律先生の冬期講習

天文二十一年 1552年 十二月下旬 場所:相模国 小田原 

視点:律Position


真里谷信高「おー、そなた達が武田の者か?よろしく」


 奏お姉ちゃんに案内されて小さい町屋に、たどり着く。

中にいたのは若い青年だ。


京四郎「武田……というか、あくまで甲斐の商人ですから」

律「そこ大事」

真里谷「は、はぁ……。あ、そう」


 ……なんとも、気の抜けた性格だ。

大名の息子というのも頷ける。お坊ちゃんタイプだ。


奏「(くれぐれも丁重に扱ってちょうだいね。これでもそのうち城主になるかもしれない人なんだから)」


 奏お姉ちゃんは、小声でささやく。


京四郎「(里見に滅ぼされた小大名の息子なんて旗頭には、良いんじゃないですか?)」

奏「(あのアホ面じゃあ、誰もついてこないわよ。ましてや、縄張りの境界に置けるワケないじゃない)」

律「つまり、当面は出番の無い人ってわけですか」


 政治をやる上で、神輿みこしが必要っていうのはわかる。

真里谷信高さんは、祭りじゃない時の神輿状態なのだ。


奏「それじゃ、後はよろしく!」


 奏お姉ちゃんは、さっさと自分の自宅ラボに戻ってしまった。

京四郎と一緒に、真里谷さん宅に取り残されてしまう。


京四郎「信高さん、単刀直入に言いますが……あきないをやれますか?」

真里谷「飽きない?大丈夫、大丈夫。なんてったって俺っち、多目様親衛隊の免罵亜メンバーだからッ!」


 信高さんは、懐から木札を取り出す。


真里谷「コレ、読んでみて」

京四郎「多目様親衛隊、会員番号三〇〇番……。……なんて読むんだコレ?」

真里谷「護御留怒ゴールドクラスだよ。多目様への愛が深い人だけが与えられる称号なんだぁ~」


 ……何してるのよ、菊池先輩。

菊地あのひとれこむっていうのが、アタシには理解できないのよねぇ……。


京四郎「信高さんの愛は伝わりましたから。銭 稼 ぎ、してもらえますね?」

信高「ほい、任しときな」

律「心配だな~」


 協議の結果、信高さんの小田原支店は、富士屋の看板を掲げないことにした。

もちろん実質は富士屋グループの子会社状態なのだが、小田原の一商店とすることで税的特権を狙うのが目的だ。

北条領の人からも小田原の店と銘打った方が、抵抗感が薄くなるだろう。



律「あとは時々でいいんで、北条の情報を伝えてください」

真里谷「情報?」

京四郎「北条がどこ攻めた、どこ攻められた~とか。小田原で米の買い占めが始まった~とか」

真里谷「ほうほふっ……」


 あ、相槌で噛むの……。


京四郎「やっぱり心配だなー。律、しばらく小田原こっちに残ってくれないか?」

律「えっ!?アタシ?」


京四郎「さすがに正月に二人して店を空ける訳にいかないし~」

律「それはそうね」


京四郎「旅館に正月から泊まろうとする人もいるかもしれないし……」

律「いるぅ~?そんな人」

京四郎「来るかもしれないだろう?来る者は、拒まずだ」


 こうなったら京四郎は、ひかないだろう。


 今月初めにアタシが公卿の方をもてなしている時も、ワインづくりしてたみたいだし、少しはコンシェルジュ業で苦労してもらうのも悪くないか……。


律「それじゃあ信高さんは、みっちり個人指導ね」

真里谷「ひ、ひぇえええ!」


 それから約一か月間、開店にむけての研修を行った。


信高さんが若くて良かった。

まだ、何とか吸収力が高いのだ。


律「店の名前どうする?」

信高「多目様のための……

律「却下。」


信高「駄目かな?」

律「ダ メ です」


 結局、店名は『湘南屋』と言うことで落ち着いた。



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