0-3-1 第10話 新たなる出会い
天文十八年三月某日 朝 場所:駿河国 駿府城下 甚内さん宅前
視点:律 Position
翌朝、天候は残念ながら快晴とはならなかったが、旅の出発には悪くない。
昨日のアドバイスに従って、アタシ達は甲斐の国を目指す。
甚内「本当はご案内できれば、良かったのですが……」
律「いえ、これ以上お世話になるわけにもいきませんから」
京四郎「甚内さんも旅支度ですか?」
甚内「ええ、これから西の方へ行こうかと。雪斎様に挨拶をして、そのまま向かいます」
律「昨日のこと、後悔しています?」
甚内「悔やんでいても、何も始まらない。大事なのはこれからです」
そういえば、アタシも似たようなことを昨日言ったじゃない。
心配なさそうね。
駿府の街に別れを告げて、歩き続ける。湾岸すれすれの
富士川には毎度のように、橋が無い。渡し船でしか渡れないのだ。
ありがとう、橋を架けてくれている人。まだこの時期の川の水は冷たいです……。
そのまま、富士本宮浅間神社周辺で一晩過ごした。
▼▼▼▼
次の日、天候は曇り。
通っている道筋は、富士山のまさに
そして……、
京四郎「つ、着いた~。
テンション高いな。さっきまで「まだ着かない、まだ着かない」って呟いていたのに。
京四郎「ここの本栖湖は、某キャンプアニメの聖地なんだよ!少しだけ寄っていなかない??」
別にアニメは嫌いではないけれど、今行く必要ある~?
返事も聞かずに京四郎はどんどん先へと行く。その時だった、
「きゃあああああああああああああああああああ!」
「お、お助けをおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
若い女の人の声と男のご老人(?)の助けを呼ぶ声がする。
京四郎「聞いたか?今の声」
律「え、ええ……」
京四郎「助けに行くぞ!ピンチの娘を助けた功績で国王の側近に出世するのは、異世界ものでは定番展開いいいいいいいいいいいいいいいい!」
そう言い残して、アイツは叫び声のした方向へと走って行ってしまった。
ここは異世界ではないし、戦国時代には国王なんていねぇよ!と、ツッコミをする間もなかった。
仕方ないので不本意ながらも追いかける。
また面倒ごとに巻き込まれるかもしれないのに……。
少しばかり、池の周りを走って追いついた。
老人と娘が盗賊に襲われているようだ。
助けを求めていたのは、この二人だろう。
相手は五、六人といったところか?
京四郎「お、お前も来たか。ん、んんっ……」
アイツは咳払いをして、
京四郎「姓は松本、名は京四郎。流派は松本京四郎流、お相手いたす」
京四郎は腰の刀に、手をかける。
時代劇かぶれめ。もっとも、臨戦態勢なのはアタシも、アイツと同じだ。
「ちっ……、ヒーロー気取りで格好付けやがって……。お前らが相手をしろ!」
そう言い放って、肥満のリーダー格の男は馬で逃げ去ってしまった。
盗賊「か、頭!?ま、待ってくだせぇー!」「あっしは戦えませんぜ!」
逃げた男を追って他の盗賊たちも慌てて逃げ去ってしまった。
京四郎「お二方はご無事ですか?」
そう言って、倒れている老人と娘に声をかける。
老人「まぁ、なんとか……、馬を盗まれてしめぇましたが……」
娘「おかげ様で、傷は浅いです。ありがとうございます」
娘さんは、そう言ってお辞儀をする。礼儀正しい人だ。
老人「お礼をしたいところなのだが、この有様で何も持ち合わせがねぇだよ。礼は府中でもよろしいずらか?」
京四郎「はい!」
……少しは、アンタも遠慮しなさいよ!
かくして、老人と娘さんと甲府までご一緒することになった。
二人にとっても用心棒代わりになると思うし。
右左口峠を越えて歩き続ける。
二人はアタシたちが三河・遠江から、はるばる歩いてきたと知ると、興味津々だった。
そこまで遠い場所へと行ったことが無いようで、食いつくように聞いてくれた。
そしていよいよ、甲府が見えた。
京四郎「と、遠かった……。ここが甲斐か……」
律「来たかいあったって言うのは禁止!」
京四郎「うぐっ……」
もう少し、考えましょう。42点。
甲府の街は意外なことに、しっかりと整備されていた。
碁盤状の街並みは、京都を連想させる。
京都の人が聞いたら怒られそうだけど。
いったい、どんなお屋敷の娘さんなのだろうか?
武家屋敷の立ち並ぶ所ではない所で、老人が指さす。
老人「ここが、我が家、そして表の店がわしの店だ。」
うん……?店?
武士じゃなかったんかい!!!
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[1]富士川:読みは、ふじかわと読む。濁点が付かないのが正式な読み。
[2]本栖湖:富士五湖の最西端の湖。千円札や五千円札に描かれている逆さ富士はここの物。
○○○○
長々となってしまった序章ですが、次回の話でほぼ終了となります。
いよいよ本格的に戦国史と内政に絡んでいきますので、応援していただけると嬉しいです。
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