第47話 脅威


「これはちょっと、まずい気がする」

 依頼のことで、ロランが魔物の本を片っ端から開いて調べてる。

 今までそんなことなかった。どんな魔物でもすぐに思い出せてたのに。

「ロランでもわからないの?」

「僕が知らないことは世界に無数にあるよ。でもこれはちょっと」

「大変なの?」

「文献がほとんどない。明日、魔術大学の図書館に行こう」

 家にだって本はすごくたくさんあるのに、それでもわからないなんて。

 翌日、ロランは魔術師の服にアームガード。

 初めて行った、魔術大学。

 魔術学校より全体的に静か。

 みんな研究をする人だからかな。

 歩きながら議論をしてる人たちもいるけど、大声を出す人は全然いない。

 研究者って穏やかなんだな。

 研究といえば、僕をオーブンに放り込んだ奴。

 研究者の資格を剥奪されて、いつ刑務所から出られるかわからないって。

 庭から魔獣みたいな骨がたくさん見つかったって聞いた。

 実験とかで死なせたのを隠したんだろうって、ロランが言ってた。

 ショップ通さないで、冒険者なり魔術師なりから直接買ったらしい。

 密売ね。

 狩りに出かけて崖から落ちちゃったとか言えば遺体の検証いらないから、密売可能なんだよね。

 何度も使える手じゃないけど。管理局や組合に疑われるから。

 魔獣窃盗、密売、虐待、殺害、遺棄……フルコースだ。

 そういう奴がいるから法律が厳しくなるんだ。

 ロランは図書館の入り口でギルドカードを出した。

 それからカウンターの中の人と少し話して何か受け取って、中に入った。

 ものすごい……ものすごく大きな部屋の視界に入る全部が本だ。

 うちの図書室なんて全然比べられない。

 調べ物の間、僕は椅子の脚にもたれて昼寝。

 広い図書館を散歩したり。

 ロランは机に戻るとカウンターでもらったカード出して置く。必要なんだって。

 半日後、図書館を出た。

 僕はロランの左腕に飛びついて話した。

「図書館ってギルドカードがいるんだね」

「あれは〝係員に許可をもらっています〟っていう証明カードをを借りるため」

「証明がないと図書館使えないの?」

「本の内容を書き写してたから」

「書き写してもいいの?」

「許可があればね。大学だって大金を使って本を集めてるんだから、むやみに書き写されたら困るよ」

「それで、調べ物はわかった?」

「全然わからない……しばらく通わなきゃ」

 1週間通って、やっと資料が見つかったみたい、だけど……。

「本当に困ったな……依頼書以外の情報が出て来ない。やっぱりまずい」

「戦うの?」

「逃げたい」

 初めて聞いた、ロランのそんな言葉。

 すごい敵なんだ。ロランが躊躇しちゃうほど。

 黙ったまま僕たちは家に帰った。

 ロランはお茶をリビングで飲まずに部屋に持っていった。

 僕もついて行った。

「相手はとても大きくて、体力も相当高いと考えられる」

「強いの? レッドバックより?」

「比較にならない。それと強力な雷魔法を使うようなんだ」

 あんなに苦労したレッドバックビーストより強い!?

「蛇や龍みたいに長い。とぐろを巻いてフワフワ浮いたりもする」

「大きくて浮くの? それで?」

「ここまでしかわからない、伝説級の魔物なんだ。500年前に現れたって文献があった」

 500年前?!

 僕の前のコールサルトと変わらない。

 確かに伝説。

「でも倒されたわけじゃない、姿を消しただけ」

「雷魔法は衝撃もあるから防御が大変だよね」

「受け流せるけど、流した先で衝撃が出る。戦士の足下が心配だ」

「地面が固いところに強い雷なんて落ちたら、割れて怖い」

「そんな魔法を何度も使われたら長くは持ちこたえられない」

「僕も雷を打って相殺できるかな?」

 ロランは手を額に当てた。

「僕の仕事を増やさないで」

 うーん……得意なんだけど難しいなあ、雷魔法。

「相手がもし他にも魔法を持っていたら本当に無理だ、抑えきれない」

「みんなが危ないよ、やめた方がいいよ」

「それ以前に受けるパーティがないんじゃないかな。負け戦確定なんだから」

「レイドは?」

「僕が守れるのは4名様までだよ」

 そう言って、ロランは依頼を保留にした。

 確かにヴァルターシュタイン家は勇敢だけど、魔術師ひとりじゃ何もできない。

 予想通り引き受けるパーティなし、フリーもゼロ。棚上げの案件になった。

 少人数で倒せるわけないし、ロランは4人までしか守れない。

 誰も受けられないよ、そんな討伐。

 その間もロランには別の仕事がいくつもある。

 世の中には魔法を使う魔物がこんなにたくさんいるのかって、ロランとバディになってから改めて驚く。

 マリスは普通の魔術師だったから、無理な仕事は受けなかった。

 勇敢と無謀は違うから。

 1度だけ、アイスリザードはやった。ただし2匹。

 パーティにシールドを持った人がいたから。

 でなくちゃ怖くて魔法を使う敵なんて無理。

 だから滞ってた話がどんどん来るんだ。

 そしてどれも高難易度の依頼ばかりだから、ロランはめでたくSランクに昇格した。

 16才でのSランク昇格の前例は、歴史の話になるって。

 ギルドカードを更新したロランは、そのまままっすぐにパートナーショップに行って、正式にシェッティを譲ってもらう手続きをして、家に帰った。

「シェッティ、シェッティ、どこにいるんだい?」

 シェッティの力って実はDランク相当なんだよね。

 実戦に出てなかったからGランクだっただけ。

 これから現場で経験を重ねて、すぐにランクアップするよ。

 呼ばれたシェッティが寝そべってたソファの陰から立ち上がると、ロランは前に膝を折って言った。

「僕と仮契約する?」

『マジ!? するする! 俺が全力で旦那を守るぜ!』

 しっぽ、ブンブン振ってる。

 そのままふたりは部屋の方に行って、しばらくしたら戻って来た。

「改めてよろしく、彼はケイ、今までどおり仲良くしてあげて」

『やったね、ケイ! ヴァルターシュタイン家にようこそ!』

『ウハー、やっと名前ついた! 今後ともよろしくな!』

 左の耳にヴァルターシュタインブルーのピアス。

 可愛いよ、ケイ。

 これでロランが使えるカードは2枚になった。

 ただし、忙しくなったけど。

 ケイのランク上げで弱い魔獣を大量に討伐しなくちゃならなくなって。

 相手はEランクFランク。退屈過ぎる。

 でも元々能力があるからトントン上がった。

 家の魔法訓練場で自習もできるし。

 そのタイミングで、あのクエストふたたび。

 どうしてもやらなきゃみたいだね、これは。

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