第22話 ゴーレムを作ることになった
「ダンジョンコアにゴーレムのボディを与える、か」
英花の発想は俺には想像もできなかったほどユニークだ。
誰だ? 俺の想像力が欠如しているだけなんて思っているのは。
「我々が掌握したのだから命令に背くことはないし自己防衛能力があるのは大きいと思うぞ」
英花の言う通りである。
置いておくだけなら保管場所を厳重に管理しても突破されれば終わりである。
自在に動けて抵抗できるなら時間を稼ぐことができるし、それ以前にダンジョンコアを核としたゴーレムならば並大抵の相手では歯が立たないはずだ。
まあ、それだけの能力を発揮させようと思うと問題も出てくるのだけど。
「手持ちの素材じゃ大したゴーレムは作れないぞ」
強靱さや頑丈さを求めるならレベルアップしたことで拡張した次元収納に入っているブツじゃ心許ないものがある。
言うまでもなく密林の木材も厳しいところだ。
術式で強化はできるとはいえ、それも限度があるからね。
「そこはバージョンアップさせていけばいいじゃないか」
「はあ、さいで」
簡単に言ってくれるけど作り直すのは俺なんですがね。
英花も錬成スキルは持っているけど、ただ持っていると言うだけで練度が高い訳じゃない。
最近は合間を見て練習はしているみたいだけど高性能のゴーレムを製作できるまでには至っていない。
それに材料を吟味して成形し術式を刻んで組み立てるのって言うほど楽じゃないんだよ。
材料を集めるくらい簡単だろうと思ったのであれば、それはとんでもない間違いだ。
精度の高い工業製品であるならともかく均質なものはひとつとしてないからね。
ゴーレムだと人間サイズの材料が必要になるから必然的に量が求められてしまう。
ここまで言えば、どれだけ大変かわかってもらえると思う。
「反応がイマイチだね。もっとこう、燃えないか?」
「じゃあ、最初の素材は英花が担当してみたらどうだ」
熱意の差にもどかしさを感じるらしい英花に提案してみた。
「ふむ、私と涼成の合作ということになるのか。それは面白そうだ」
そんなことを言っていられるのも今のうちだと思うけどな。
どれだけ大変か、身をもって知るといい。
「合作と言うことならデザインについても提案があるのだが」
「いいけど?」
むしろ考えなくて済むから楽だしクレームも無くなりそうだから歓迎したいね。
「メイドだ」
「は?」
一瞬、英花が何を言っているのか理解できずに間の抜けた声を出してしまった。
「だからメイドだよ。メ・イ・ド」
繰り返されて、ようやく英花の言いたいことを理解できた。
maidのメイドであり訳せば女中となるメイドのことを言いたいらしい。
どうやら思った以上にこだわりがあるようだ。
「何で、また?」
呆れをにじませながら問う。
甲冑型がいいとか人の姿に近づけたいからマネキンのようにしたいとか言われるのかと思っていたからね。
注文としては後者に近いとは思うが、さらに上のクオリティを求めているような気がしてならない。
それはもう趣味の世界だ。
「それを問うのか」
さも意外だと言わんばかりに呆れ返された。
マジか……
「ダンジョンコアは我々にだけ従うのだぞ」
拳を握りしめて力説する英花さんである。
今ひとつ理解できないのだけれど。
「けど、そのダンジョンコアを自分で守らせるためのボディを用意するんだよな」
「もちろんだ。そんなものは大前提じゃないか」
その上で何かを求めているらしいことだけは理解できた。
「だからといって普段は何もさせない気か?」
そんな風に問われて防衛以外の用途を考慮していなかったことに気付かされた。
言われてみれば何もさせないのは宝の持ち腐れかもしれない。
「使用人のようなことをさせたいんだな」
「うむ」
「だったら執事でもいいんじゃないか」
俺がそんなことを言ったら、あり得ないとばかりに愕然とされてしまった。
そこまでか。
「執事なんて無骨で可愛くないだろう!」
より力を込めて語る英花。
要するに男や中性の見た目になるのは絶対に嫌なんだな。
こっちは製作時に恥ずかしいから女性型を避けたかったんだが。
しかも、この調子じゃ英花が求めるクオリティのハードルもかなり高そうだ。
「そこまで言うならデザインは任せる」
むしろ丸投げしたい。
……そうか。完全に外注してしまえば、あまり恥ずかしい思いをせずに済むのか。
「うむ、任されよ」
英花が重々しくうなずいた。
「ついでに表層の仕上げもやってみるか? 錬成スキルの練習になるだろ」
「ほう。それは挑戦しがいがあるな」
思った以上の反応で食いついた。
やはり熱の入れ様は俺などとは比べるべくもない。
「しかし今の私の腕で思い通りのものができるだろうか」
ここで初めて英花が不安を口にした。
求めるクオリティの高さがうかがえるというものだ。
「とりあえずやってみたら? 上手くいかないときはフォローするから」
そんな提案をしてみた。
全面的に任されるよりは、はるかにマシだからね。
「そうだな。涼成のサポートがあれば百人力だ」
昭和か、と内心でツッコミを入れてしまったほど古臭い言い回しである。
「服の方もいけるか?」
「もちろんだとも」
脂肪で膨らんだ部分が揺れることも気にせず胸を張る英花さん。
見た目は美女なのに言動というか中身は男なんだよなぁ。
その時々によって男子小学生だったりオッサンだったりするんだけど。
今は厨二病をわずらった高校生くらいかね。
とにかくデザインのことは考えなくて良くなった。
それだけでも心理的負担が減るので実にありがたい話である。
「それでボディの素材なんだが」
「最初は木でいいんじゃないか。その辺にいくらでもあるし」
「それはどうなんだ? 壊れやすいだろうし、何より燃えてしまうじゃないか」
「単なる削り出しの木材ならな」
「何か方法があるのか」
英花にとっては意外な返事だったらしく軽い驚きを見せていた。
「合板にしたり圧縮したりするだけでも違ってくるぞ」
後は特殊な薬液に漬け込めば燃えにくくすることもできる。
そのあたりは異世界で盾を作るときに研究したからお手の物だ。
兵士長が道具に頼るなとか言って装備の支給を渋ったせいだけど奴も邪険な行動が裏目に出るとは思わなかっただろうな。
消滅する前の奴ならきっと悔しがったに違いない。
「要は工夫しだいということか」
「そういうことだね。あと間に合わせなんだから最高スペックを求めてもしょうがない」
それで英花も納得してくれた。
「細かい話は帰ってからにしよう」
闇の状態は解除されたとはいえ密林の中じゃ陰気くさいし。
「そうだな」
という訳で俺たちはダンジョンコアを手土産に転移魔法で爺ちゃんの家に帰った。
そこから最初に手をつけたのは言うまでもなく先に取り決めたダンジョンの再設定だ。
ダンジョンコアはゴーレムのボディが出来上がるまで爺ちゃんの家の床の間に仮設置した。
一朝一夕で仕上がるものじゃないからね。
日常においてはメイドとして働かせるなら戦闘以外の所作も術式としてゴーレムに刻み込む必要があるし。
しばらくは爺ちゃんの家に引きこもることになりそうだ。
外の世界に出られるのは、いつになるんだろうね。
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