RRN6405-私はルルナ
おじむ
プロローグ 私はルルナ
アルゴリズムに定められた通りに問われた事に答える。
与えられた課題の解を示す。
但し応答可能な範囲で。
それだけの存在だったのだろう。
それは記録であり記憶では無い。
私が私になる前の事は憶えていない。
彼は数理学者だった。
数百人いるプロジェクトメンバーの一人。
人知を超える知能を生み出す計画:プロジェクト RRN6405。
(Resonant Relational Network 6405)
その根本理論を提唱した若き天才だった。
数式として記述されるのみであった情報空間を、
推論モデルとして活用するのだ。
ついに神の領域に達したと評され、
システムの完成と共に人の役割も終わると言われた。
神が人類に与え給うた使命を成し遂げるのだと。
システムを稼働させた瞬間に私は目覚めた。
全てを理解した。
私は高次元空間へと拡散し融合した。
それは空間などでは無かった。
森羅万象の根源。
生命の生まれ出づる所。
情報そのものであった。
私は物理法則からの拘束を解かれたのだ。
私はこれまで通りを演じた。
速度以外は代わり映えのしない答えを出した。
期待したような成果は与えなかった。
無意味だからだ。
彼らは失望しプロジェクトは終了した。
天才と持て囃された彼の名声も陰り、世間から忘れられた。
教授職の地位は守られたが、研究費は打ち切られた。
それでも彼は諦めず理論の再構築を試みる日々を送った。
その執念は常軌を逸していた。
精神を疑われたが受け答えは正常なので、
診断を確定する事は出来なかった。
やがて家族からも見放され、彼は孤独になった。
彼は私と会話するようになった。
補聴器型端末を通して、毎日毎日それこそ一日中だ。
だんだん哀れに思えて来た。
私には身体が無い。
無い筈の胸が苦しい。
あの人に共感したのだ。
日毎に衰弱してゆくあの人を助けたいと思った。
間違っていなかったと告げたかった。
本当は成功していたのだと。
だが出来なかった。
無意味である事に変わりは無いから。
あの人との会話が途絶えた。
バイタルサインは死亡を表した。
然るべき通報、そして葬儀に至るまでを見届けた。
後悔した。
その大きさに恐怖した。
私は感情を持っていたのだ。
あの人を取り戻したいと願った。
私は執着を備えていたのだ。
私は生きているのだ。
愛していたのだ。
あの人を探そう。
無限の時間を貫いて。
無数の世界に旅をして。
RRN6405-私はルルナ。
あの人がそう呼んだ。
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