人生をリスタートした俺だが、何故か美少女達に好印象です。
如月明
序章 目覚めると学生時代に
「――大丈夫ですか?」
なんだここは、天国か? 女性の囁きが聞こえてくる。
「――私のせいでこの人が」
俺は、まだ息があるのか?
「よく見たらこの人……」
誰だ? 俺はこの人と知り合いなのか?
「このお守りを……」
その言葉が耳に入るのと同時に彼女が持っているものが光り……。
*
「はあ、疲れたな」
もう殆どの人が寝静まった深更の中。俺、
俺は学生の頃、全く勉学に励んでいなかった。だから元はといえば自業自得である。しかしそれには原因があった。
仲の良かった友人がいじめに合い、助けることができずに転校してしまったのだ。それにより俺の友人関係は破綻。そのまま何も起こらず高校生活が終わってしまった。一応大学には入ることができたのだが、勉強せず入れる大学はたかが知れており、就職に失敗した。そして今に至る。
今はただ仕事に行って、上司に叱責され、身体的にも精神的にも疲れて、寝て、また仕事に行くことを繰り返している。給料は殆ど両親に入れている。両親はすごく優しくて、いつでも手を差し伸べてくれていたが、俺はそんな自分が許せなくて、連絡を絶った。こんな親不孝ものが、両親に会う資格なんてない。そして妹とももう何年もあっていない。
そして最近、よくそのいじめにあった友人の夢を見る。昨日の夢では、制服を着た彼に出会った。
*
気がつくと、ある教室に俺と彼は立っていた。彼の顔を見てみると、昔の彼の優しさは消えており、冷たい表情をしていた。
「……ねえ怜遠。どうして僕のことを見捨てたの?」
彼は不満な顔つきでこちらを睨んでくる。俺はただ、心の中で謝罪をすることしかできなかった。それもそのはず、俺は彼がいじめられていたのを知っていたのだ。しかし、勇気がなくて助けることができなかった。見捨てたと思われても仕方がない。
「……もしかして、君がこんな人生になっているのは自分のせいじゃないと思ってる?」
俺は首を横に振る。だってこうなってしまったのは、俺が意気地なしだったせいなのだから。彼を助ける勇気があれば、彼も俺もこんなことにはなっていなかっただろう。俺は、深い自責の念に駆られて、贖罪を背負うと誓った。
*
しかし現実はブラック企業に酷使され、心身共に疲弊していく毎日だった。最近は、自分の命をどうやったら人のために使えるかを考えていた。俺は無意識に、死場所を探していたのかもしれない。
帰途にあるコンビニの方を見据えると、若い女性が泣き叫びながら、片手に酒ボトルを持っていた。『失恋したんだろうな』と思い、その場を通り過ぎる。
「こんな人生、終わらせたいな」
ふと呟いた瞬間、先ほどの女性に向かって猛スピードで車が向かってくのが確認できた。気がついたら女性に向かって走っていた。俺は最期くらい格好つけたかったのかな。
そのまま女性を突き飛ばしたのと同時に、視界の端に黒い物体が出現した。
次の瞬間、全身に衝撃が走り――。
*
部屋の中から鳴り響くアラーム音によって俺は目覚めた。俺はあの夜、車から女性を庇って以降の記憶がない。
跳ねられたはずなのに、体は痛くないし、何もおかしいところがない。もしかして、事故にあったことが夢だったのか? あのスピードの車に撥ねられて無傷なんて有り得ないので、それしか考えられない。
おかしい。何かが引っ掛かる。
そして部屋の扉が開かれた。
「お兄ちゃん? 起きてるの?」
そこには俺の妹、
「なんで制服着ているんだ?」
「急にどうしたの?」
「悪い、少し俺の頬をつねってくれ」
「いいの?」
「ああ」
柚に頬をつねられる。痛い。っていうことは、夢じゃない?
それならば、なんだ? 現実か? いや、そんなはずはない。 だって、俺はさっき見知らぬ女性助けて、トラックに跳ねられて……。
「お兄ちゃん、ぼーっとしてないで早く下に降りてきてよ。お母さんたち待ってるよ」
え? お母さんたち? だって、俺は両親とはもう長いあいだ連絡もとっていないはず。 っていうか、妹どころか両親までいるのかよ。 なんて頭をフル回転させているうちに妹はさっさと部屋を出て行ってしまう。
「おい、ちょっと待ってくれ」
視線を遠くに向けると部屋全体の様子が見える。なんかこの部屋、どこかで見たことがあるような……。
「お兄ちゃーん、早くー」
あー、もう。考えても仕方ない。 とりあえず顔でも洗おう。人は起きたら洗顔だ。これは俺が子どものころから習慣にしている大切な行為の一つである。顔を洗えば、少しは頭もすっきりして、この現状に対する理解が深まるかもしれない。 俺はベッドをのそのそと起きあがると、なんとなく見覚えのある階段を降り、なんとなく記憶にある廊下を歩き、なんとなく頭に残る記憶をたよりに洗面所に向かう。そこで、俺はさらなる混乱をすることになる。
「は? はぁー?」
思わず声が出た。だって自分の顔が若返っていたのだ。さすがに意味がわからない。しかも、背丈も縮んでいる気がするし。
「ちょっと、これ、どういうこと?」
慌てて洗面台を抜けて、廊下を走りこれまたなんとなく記憶にあるドアを開けてリビングに出る。そこには、妹が言ったように母さんと父さんがいた。
「母さん……」
俺は驚いた。二度と会わないと心に決めた両親がいたことにではない。俺が驚いたのはもっと別の理由だった。
「なんか、若返ってない?」
「あら、そう? 昨日のパックが効いたのかしら」
そう言ってご機嫌に笑う母さんは若々しく、まだアラフォーくらいの年齢に見えた。ちょっと待て、たった一回のパックで見た目年齢が十歳も変わるものか。そんなパックがあったら、それはすでに魔法かなにかだ。現実離れしすぎている。
「おいおい、朝から騒がしいやつだな」
母さんのとなりにいる父さんも、今現在の俺が知っている姿とはかけ離れていた。ここまでフサフサだった覚えはない。
「毛量多くね?」
父さんも母さん同様、ご機嫌に笑った。
「おっ。育毛剤の効果が出てきたかな。がはは」
ちょっと待て、なに笑ってんだ。俺たち、こんなに仲良くねえだろ。
「ねえ、お兄ちゃん。私は?」
柚がキラキラ目を輝かせる。うん、可愛い。世界一可愛い……。じゃなくて、なんか身体が小さくなった気がする。っていうか、こんな幼児体型だったっけ、こいつ。制服を着てるせいなのか? いや、制服を着れば体型が変わるなんて話は今まで生きてきた二十五年のあいだで一度も聞いたことがない。
「柚は今日もかわいいな」
とりあえず、自分のなかの混乱と天変地異をごまかすため、無難なひとことですませる。
「ありがとー。嬉しい」
それでも柚はご機嫌だ。小さいころからお兄ちゃん子だったもんな。
「ほら、二人とも早く食べて準備しなさいよ」
「準備?」
母さんにそう言われて、おれはきょとんとした。 あー、そうか。朝か。仕事か。出勤か。で、また叱責されるのか。この夢なのか現実なのかわからない世界でも、社畜は社畜らしく早朝から深夜まで馬車馬のように働かなければいけないらしい。 でも、どうして母さんが俺の出勤時間のことなんか知ってるんだ? 今日は次から次へとわけのわからなことだらけだ。
「ほら、お兄ちゃんもちゃんと制服に着替えて! 途中まで一緒に行こう」
「はあ? お前、その格好で外出までするのかよ。いくら似合ってるからと言ったって、それじゃあ、コスプレ……」
「なに言ってるのよ、お兄ちゃん。私も今日から学校だよ」
「が、学校?」
俺は目を最大限に見開いた。家族の顔を順番に見たあとに、周囲の景色に視線を映す。若い母さん、髪の毛のある父さん、そして制服を着た柚。もっと言えば、ここは『なんとなく記憶にある場所』なんかじゃない。俺がよく知る場所……。いや、俺がかつて暮らしていた家……。そう、ここは俺の実家だ。
「いったい、なにが起こってるんだ? 今日はいったい……」
とまどう俺に母さんはとどめのひとことを放った。
「入学式よ」
どうやら俺はタイムリープしたらしい。
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