人生をリスタートした俺だが、何故か美少女達に好印象です。

如月明

序章 目覚めると学生時代に

「――大丈夫ですか?」


 なんだここは、天国か? 女性の囁きが聞こえてくる。


「――私のせいでこの人が」


 俺は、まだ息があるのか?


「よく見たらこの人……」


 誰だ? 俺はこの人と知り合いなのか?


「このお守りを……」

 

 その言葉が耳に入るのと同時に彼女が持っているものが光り……



「はあ、疲れたな」


 もう殆どの人が寝静まった深更の中。俺、神里怜遠カミザトレオンは歩いていた。仕事からの帰り道だ。どうしてこのようなことになったというと、ブラック企業に入社してしまったからだ。


 俺は学生の頃、全く勉学に励んでいなかった。だから元はといえば自業自得である。しかしそれには原因があった。


 仲の良かった友人がいじめに合い、助けることができずに転校してしまったのだ。それにより俺の友人関係は破綻。そのまま何も起こらず高校生活が終わってしまった。一応大学には入ることができたのだが、勉強せず入れる大学はたかが知れており、就職に失敗した。そして今に至る。


 今はただ仕事に行って、上司に叱責され、身体的にも精神的にも疲れて、寝て、また仕事に行くことを繰り返している。給料は殆ど両親に入れている。両親はすごく優しくて、いつでも手を差し伸べてくれていたが、俺はそんな自分が許せなくて、連絡を絶った。こんな親不孝ものが、両親に会う資格なんてない。そして妹とももう何年もあっていない。


 そして最近、よくそのいじめにあった友人の夢を見る。昨日の夢では、制服を着た彼に出会った。


 

 気がつくと、ある教室に俺と彼は立っていた。彼の顔を見てみると、昔の彼の優しさは消えており、冷たい表情をしていた。


「……ねえ怜遠。どうして僕のことを見捨てたの?」

  

 彼は不満な顔つきでこちらを睨んでくる。俺はただ、心の中で謝罪をすることしかできなかった。それもそのはず、俺は彼がいじめられていたのを知っていたのだ。しかし、勇気がなくて助けることができなかった。見捨てたと思われても仕方がない。


「……もしかして、君がこんな人生になっているのは自分のせいじゃないと思ってる?」


 俺は首を横に振る。だってこうなったのは、俺が意気地なしだったせいなのだから。彼を助ける勇気があれば、彼も俺もこんなことにはなっていなかっただろう。俺は、深い自責の念に駆られて、贖罪を背負うと誓った。


 

 しかし現実はブラック企業に酷使され、心身共に疲弊していく毎日だった。最近は、自分の命をどうやったら人のために使えるかを考えていた。俺は無意識に、死場所を探していたのかもしれない。

 

 帰途にあるコンビニの方を見据えると、若い女性が泣き叫びながら、片手に酒ボトルを持っていた。『失恋したんだろうな』と思い、その場を通り過ぎる。


「こんな人生、終わらせたいな」


 ふと呟いた瞬間、先ほどの女性に向かって猛スピードで車が向かってくのが確認できた。気がついたら女性に向かって走っていた。俺は最期くらい格好つけたかったのかな。


 そのまま女性を突き飛ばしたのと同時に、視界の端に黒い物体が出現した。


 次の瞬間、全身に衝撃が走り――。


 *


 部屋の中から鳴り響くアラーム音によって俺は目覚めた。俺はあの夜、車から女性を庇って以降の記憶がない。


 跳ねられたはずなのに、体は痛くないし、何もおかしいところがない。もしかして、事故にあったことが夢だったのか? あのスピードの車に撥ねられて無傷なんて有り得ないので、それしか考えられない。

 

 ふと部屋を見渡すと、あのアパートじゃないことが分かった。ここまで綺麗じゃないし、こんないい家具が置いているはずがないからだ。それに、懐かしいポスターが貼られている。


 おかしい。何かが引っ掛かる。


 そして部屋の扉が開かれた。


「お兄ちゃん? 起きてるの?」


 そこには俺の妹、柚ユズがいた。そしてなぜか制服を着ている。夢か? これは夢なのか? 夢の中で夢を見ているのかもしれない。


「なんで制服着ているんだ?」


「急にどうしたの?」


「悪い、少し俺の頬をつねってくれ」


「いいの?」


「ああ」


 柚は了承し、俺の頬が引っ張られ、激痛が走る。それと同時に、ここが現実であると言う確証が得られた。


「夢じゃねーなこれ」


「大丈夫? でもお兄ちゃんがやれって言ったんだからね。私は先降りるけど、お兄ちゃんもすぐ降りてきてよ」


 そして柚が下に降りて行った。


 とりあえず顔でも洗おうと、洗面台に行くと、俺は驚愕したことがあった。それは、自分の顔が若返っていたからだ。まだ学生であるかのような顔立ちをしており、髭も生えていない。身長も一七五センチあたりだろうか。五センチくらい縮んでいる。俺は不思議に思いながら、リビングに向かった。


 リビングに入ると、俺がもう会わないと誓っていた両親がいた。それもあり、ここが実家だと言うことが分かった。もう何年も行ってない実家に対して懐かしい気持ちと、連絡を絶って気まずい気持ちが入り混じる。


 そして俺は言葉を失ってしまう。


「どうしたの怜遠? ボケーっとして」


「母さん気にしてないの?」


「何のこと?」


 お母さんはキョトンとしてこちらを見ていた。もしかしたら忘れてるかも知れない。ここはシラを切ることにした。


「何でもない。てか若返ってない?」


「昨日のパックが効いたのかな?」


 実際お母さんは若々しく、まだアラフォーくらいに見えるくらいであった。いくら長い間見ていないにしろ、ここまで劇的に若々しく見えるものなのだろうか。ふとお父さんの方を一瞥すると、髪がフサフサであった。前見た時はもう少し禿げていた覚えがある。増毛でもしたのだろうか。


「父さんも毛量多いし」


「育毛剤が効いたんじゃないか?」


「お兄ちゃん私は?」


 柚に関しても、小さくなったように感じた。まず制服を着ていることが可笑しいし……。ダメだこれ。ご飯食べて今日は一日中考えるしかなさそうだ。柚にもなんか一言言っておこうか。


「柚は今日もかわいいな」


「ありがと〜。嬉しい」


「早く食べて準備しなさいよ」


 ん? 何の準備だ? 俺に向かって話しかけているので、俺は頭をフル回転させて考える。仕事の準備か? いやまず俺の出勤時間を知っている筈がない。


「私も今日から学校だよ……」


 家族が全員若々しい。柚が学生。懐かしい家。これってもしかして……。


 戸惑う俺に、母さんは渾身の一言を放った。


「入学式よ」

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