わしつのかい

わしつのかい

 とある学校に茶道の一環として和室がある。

 そこには怪異が出る、そういう噂がある。

 どういった怪異なのか、それは誰も知らない。


 誰も知らないのだが、皆が皆、あの和室には怪異が出ると噂するのだ。


 少女は茶道部だ。

 茶道部、と言っても普段ほとんど稼働していない部で、週一でお茶を立てれば良い方だ。

 普段は和室で足をのばし、友人らと話をしているだけの部活だ。


 そんな少女は今日、遅刻をした。

 その罰として、茶道部だからと、和室の掃除を茶道部の顧問に言われる。


 少女は一人、和室に行き掃除を始める。

 なんで自分が、と思うのだが、掃除をすれば遅刻の記録をなかったことにしてくれる、という話なので少女もそれに乗ったのだ。


 怪異が出る。確かにそんな噂がこの和室にはある。


 だが、少女にとっては慣れ親しんだ和室でそんな物を一度も見たこともない。

 何かおかしい事が起こったこともない。

 少女にとってはただの和室であり部室でしかない。


 乾いた雑巾で畳を乾拭きしていた。

 もう暑い時期だが、掃除中ということで、和室の襖を全開にし、エアコンもつけずに少女は掃除をしていた。

 普段部室として使っているせいか、中々に汚れていた。


 あらかた掃除が終わった後だ。

 少女は畳に大の字になって寝っ転がる。

 そして、掃除が終わったことを確認に来る顧問を待っていた。


 掃除をしたことと、寝っ転がっていたことで少女はうとうとし始める。

 だが、すぐにこんなところで寝ていたら、顧問に何を言われるかわからないと、そう思い目をしっかりと開ける。


 少女の目に移り込んで来たのは、足だった。

 素足で色白な、恐らくは女性のもの、そんな足が見えたのだった。


 少女は誰だろう、そう思い見上げようとするが、体が全く動かない。

 体が動かないことに少女は驚く。

 それと共に、おかしなことに気づく。

 

 少女から見えているのは右足で、少女の方に爪先が向いているのだけれども、左足が見えないのだ。

 少なくとも少女が動かせる視線の中に左足が見えない。

 右足だけが少女の方に爪先を向け、少女の顔のすぐそばに存在しているのだ。

 そのことに少女が気づいた瞬間だ。


 少女の背筋にゾクゾクゾクっとした寒気が走る。


 気づけば少女は目の前の右足から視線を外せなくなり、目も閉じられなくなっていた。

 声も上げられず、体も全く動かせない。

 ただ目の前の右足を見ていることしかできない。

 瞼すらつぶることができない。

 少女の恐怖が限界を迎えようとしたときだ、掃除終わったか? と顧問の先生の声が少し遠くから聞こえてくる。


 そうすると、目の前の右足は上にスッと上がっていった。

 足が完全に見えなくなると、少女はやっと動けるようになった。

 少女は顧問に助けを求め、そして、茶道部を辞めると伝えた。


 その和室には、よくわからない怪異が今もいるという話だ。

 




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