ねっとふりま

ねっとふりま

 ネットのフリーマーケットで女は、古い小物入れを買った。

 元々はオルゴールの箱なのだが、オルゴール部分は壊れて音が出ない。

 無論、女はそのことを承知で買っている。


 それは見た目では小さな箱なのだが、それに施された意匠はとても素晴らしい物だったからだ。

 実物が届いても、女は買って良かった、そう思えるほど美しい小物入れなのだ。


 これがオルゴールとして機能していれば、どんなに素敵だったのだろうと、女は想像する。

 一応、オルゴール用のネジ巻きも一緒に送られて来ていた。

 それで小物入れのネジを巻こうとしてもオルゴールが鳴ることはない。


 ネジ巻きが空回りするのではなく、もう既に限界までネジが巻かれていて、ネジ巻きが出来ない、そういった感じなのだ。


 もしかしたら何か詰まっているのかもしれない。

 そう思った女は、その小物入れを丁寧に分解してみる。

 分解、と言っても、手で外せる箇所を外しただけだが。


 オルゴールの機械が入っている場所を開けた瞬間、女は息を飲む。


 真っ黒だった。

 艶のある黒だった。

 それは細く、黒い、艶のある長い髪の毛だった。


 女は初めオルゴールの機械の部分に、機械の代わりに髪の毛が詰め込まれている、そう思えた。

 だが、そうではなく、髪の毛がオルゴールの機械に絡まっているだけだった。

 どういう絡まり方をすれば、こうなるのか、女には理解できなかったが。


 それを見て女が思ったことは、恐怖よりも、これならオルゴールを鳴らせるかもしれない、と言うことだった。

 女はピンセットとハサミを使い、少しづつ髪の毛を切り、丁寧に、オルゴールの機工部分を壊さないように、髪の毛を取り除いていく。


 三時間ほど作業した頃だろうか、大方の髪の毛は取り除けていた。

 取り除いた髪の毛は物凄い量だった。

 女はそれをゴミ箱に捨て、オルゴールの蓋を戻し、スイッチを入れる。


 甲高い音が鳴り始める。

 最初こそ澄んだ綺麗な音だったが、すぐにそのオルゴールは不気味な不協和音を奏で始める。

 どう表現したらよいのだろうか。

 不協和音は不協和音なのだが、それはちゃんと曲として成立している。

 それなのに聞いていて、不愉快になり、不安を募らせる、そんな音がオルゴールから鳴り響くのだ。


 女は慌てて、そのオルゴールを止めた。

 こんなオルゴールなら、鳴らなくて良かった、そう思い必死に数時間もの間、オルゴールを鳴らそうとしていた自分を悔やむ。


 そして、深夜遅くになっていたので、女はそのまま不貞寝する。


 だが、真夜中に女は起こされる。

 止めたはずのオルゴールが独りでに鳴り始めたからだ。

 あの不協和音で人を不愉快にさせ、不安にさせる曲が独りでに鳴り始めたのだ。


 オルゴールの中に大量の髪の毛が絡まっていたことにすら、恐怖しなかった女も流石に驚き、不安に思い始める。

 この買ったオルゴールは呪われているんではないかと。


 そこで、女はネットのフリーマーケットのページを開き、星一つ、呪われた商品を買わされた、と、レビューを書き込み満足した。

 小箱自体は気に入っているので、女はそのまま使っている。

 その、呪われているかどうかも、本当はわからないオルゴールは、今も女の家でたまに不許和音を独りでに鳴らしている。


 ただそれだけの話だ。




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