しーつ

しーつ

 女が家に買い物から帰ってくると、リビングの床にシーツが落ちていた。

 白い、それこそ何の汚れも皺すらない綺麗な真っ白いシーツだ。


 それがリビングの床に落ちている。


 女は、こんな真っ白いシーツあったかしら、と、シーツを片そうとする。

 すると、シーツが独りでに舞い上がる、いや、浮き上がると言ったほうが良いかもしれない。

 上から糸で引かれるのではなく、シーツの下に何かが潜んでいて、それが立ち上がるかのように、シーツが浮き上がったのだ。


 それを見て女が思ったことは、息子の悪戯、だった。

 いたずら盛りの息子だ。

 こんなこともするだろう、そう思ったのだ。

 女は息子の名を呼んで、こんなシーツどこから出して何やっているの、と、小言を言う。


 そうするとそのシーツは女の前までユラリユラリとやって来る。

 女はやっぱり息子だったのか、と、そんなことを思う。


 そうこうしていると玄関が開き、息子が、ただいまー、と、帰ってくる。


 息子の声を聴いた女はとっさにシーツを、目の前までやって来ていたシーツを剥ぎ取る。

 そこには何もいなかった。

 シーツの下には何もなかったのだ。


 女は悲鳴を上げる。

 そうすると息子がやって来て、どうしたの? と、女に声をかける。

 女はパニックを起こし、息子に抱き着き、お化けお化けお化けが、と、そんなことを繰り返した。


 その夜、夫が家に帰って来て息子から、事情を聴く。

 その時、女は参ってしまいベッドに横になっていた。

 夫は女に、お化けを見たんだって? と、少しからかいながらそう言った。

 女は、シーツが浮いて息子だと思ったら中に誰もいなくて、と、うわ言の様に夫に伝える。


 そうすると、女が寝ている部屋に、シーツをかぶった何者かがやって来る。

 夫は少しだけ驚き、シーツを剥ぎ取る。

 そこには息子がいた。


 男は息子を怒る。流石に母親が寝込んでいるのに、これは酷いだろうと。

 からかっていた自分のことを棚に上げて、夫は息子を怒っている。


 そうすると、部屋にもう一度シーツをかぶった誰かが入って来る。

 三人は無言でそのシーツを見る。

 三人暮らしの家で、女も、夫も、息子も全員いるのに、シーツをかぶった誰かがやって来たのだ。

 夫がシーツを剥ぎ取る。


 そこには誰もいない。

 この家には三人しかいないのだから、それは当たりまえだ。


 ただ、それだけの話だ。






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