かいしゃのろうか

かいしゃのろうか

 とある田舎の会社にとても長い廊下がある。

 社屋は古い社屋で夜になると薄暗くなる廊下がある。

 学校の廊下を思い起こすような、そんな長く薄暗い古い廊下がある。


 男はこの会社に勤めて数年になる。

 廊下がたしかに薄気味悪いが、何があるわけではない。

 そう、何もないのだ。

 これだけ薄暗く気味の悪く、長い廊下なのだ。

 なにか良くない噂の一つや二つ、あってもよい物なのに。

 とはいえ、ここは学校なのではなく会社だ。

 そこにいる人間も大人だ。

 そんな噂など、そもそも出てこないのかもしれない。


 男はそんなことを考えて、日の落ちた後、会社の長い廊下を歩く。

 古い社屋だ。

 それこそ学校のような構造となっている。

 それなりに大きな部屋が一本のまっすぐな廊下で繋がっている。


 自分の部署がある部屋まで男は長い廊下を歩く。

 部屋の反対側には窓があるが、暗い風景が見えているだけだ。

 日が落ちた今では特に何も見える景色はなく、近くの社用車が止まっている駐車場が見えるだけだ。


 男は視線を窓から廊下へと戻す。

 自分の部署まで、もうしばらくこの長い廊下を歩かなくてはならない。


 薄暗い廊下を男は歩く。

 そうすると男をつけるように、男の後ろのから足音が聞こえて来る。

 男が足を止め、振り返ると誰もいない。


 男はなんだかゾワゾワした物を感じた。


 男が再び歩き出すと、後ろから足音が聞こえて来る。

 自分の足音ではない。男は室内用のサンダルを履いており、響くような足音はならないのだ。


 男はもう一度振り返る。

 誰もいない。


 男は少し早歩きで自分の部署がある部屋まで逃げるように帰る。

 もう定時は過ぎているが、まだまだ人は多い。

 男はすぐに同僚のところへ向かい足音のことを話す。


 同僚は面白がって廊下を見に行った。

 しばらくして、青白い顔をした同僚が帰って来る。

 たしかに誰もいないのに足音が後ろからした、と同僚も証言した。


 その話を聞いた別の同僚や上司までもが廊下へ向かって行き、その全員が青白い顔をして帰って来た。


 なにか気味が悪いから、という理由で男の所属している部署はその日、早々に全員が仕事を切り上げて帰って行った。

 帰りに飲み屋に行き、あの足音は何だったのか、そんな話をしたりもした。


 それ以来、その会社の廊下では日が暮れると、自分のものではない足音が背後から聞こえてくることが度々ある。

 だが、それで騒いでいたのは最初の数週間くらいのもので、数か月後には誰も気にすることはなくなってしまった。

 足音しかしないのであれば、そんな物なのかもしれない。






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