ぞうに
ぞうに
雑煮を食べる。
正月だから。
男は餅を買った覚えはない。
だが、餅がある。
まるでつきたてような餅があるのだ。
まだ柔らかく焼く必要もない。
適当に雑煮の汁を作り、その餅の上からかけてやるだけでいい。
男は出汁を作り、大根を小さくきり、青菜も入れてやる。
そして、それらを一煮立ち。
それをお椀に入れた餅の上にかけてやる。
まずはスープの味を確認する。
良い出汁が取れている。
大根とよく合っている。
青菜も良いアクセントになっている。
では、とばかりに男は餅を箸で持つ。
その餅ははまるで生きているかのようにプルプルと震え、伸びる。
餅を口へ運ぶ。
食感がない。
それどろこか、熱い汁をかけているにもかかわらず、その餅はえらく冷たい。
男はなんだこれは、と、その餅をよく見る。
それは餅ではない。
ではなんなのか。
白くふわふわとしたそれは男にはよくわからない。
だが、何となく男にはその正体がわかる。
あれは、これは、この間、死んだ親戚のおじさんだ。
正月だから、わざわざ会いに来てくれたのに、雑煮にしてしまった。
男は反省した。
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