のっく

のっく

 部屋のドアをコンコンとノックされる。

 この部屋の住人の男はギョッとする。


 今、この家にいるのは男一人のはずなのだから。

 家族は里帰りしていていないはずだ。

 男は仕事があったので、それにはいけなかったが。


 なんにせよ、今はこの家には男一人のはずなのだ。


 なのに、ドアをコンコンとノックされたのだ。

 男は聞き間違いかと思い無視する。

 そして、パソコンで仕事の作業を続ける。


 だが、しばらくして、再びコンコンとドアをノックされた。

 今度は間違いではない。

 男は、誰だ、と声を荒げる。

 返事はない。

 当たり前だ。今、この家には男しかいないはずなのだから。

 泥棒か、と男は思う。

 男が出て行って逃げ出すような泥棒ならまだしも、強盗のような輩だったら大変だと、男は少し考える。

 幸いこの部屋は仕事部屋の為、鍵がかかる。

 男は音が鳴らないように、ゆっくりと部屋の鍵をかける。

 カチンと言う音がして、ドアに鍵がかかる。

 これでそう簡単にはこの部屋には入れないはずだ。


 男が次にしたことは、ドアに耳を当てて外の音を少しでも拾おうとすることだった。

 そうすると、聞こえるのだ。


 何者かの息遣いが。


 何者かがいることは事実のようだ。

 続いて男は床に頭を付けて、ドアの下の隙間から外の様子を見る。

 そうすると、見えたのだ。


 何者かの白い足が。


 男はここで警察を呼ぶかどうか迷う。

 知り合いのいたずらか、泥棒か、その判断が男には着かなかったからだ。

 男は決心する。

 いざとなったら窓から逃げればよいと。

 ここは二階だ。

 窓から外に逃げれなくもない。


 男はもう一度ドアに向かって、そこにいるんだろ? 誰だ? と、声を掛ける。

 そうすると、ドアのむこうの人物は、ドアノブをガチャガチャガチャと鳴らして来た。


 男はその音に震え上がる。

 脅しとばかりに、警察に電話したからな、と声を荒げる。

 まだしてないが、本当にそうするためにスマホを取りにドアの前から離れる。

 スマホが机の上に置きっぱなしだ。


 男がドアの前を離れ、スマホを手にしたとき、ドアノブを鳴らす音が止まる。

 そして、カチャンとなぜか鍵の開くことがする。


 男は今度こそ恐れ戦く。


 スマホ片手に、窓から屋根の上に飛び出す。そして、息を殺して窓の外から部屋の様子を観察る。

 部屋のドアが開く。

 だが、そこには誰もいなかった。


 しばらく待っても何も起きない。

 誰もいない。

 ただ勝手にドアが開いただけだ。


 男は恐る恐る窓から家の中へと戻る。

 そして、電気を着けながら家の中を隅々まで見て回る。

 その結果、誰もいない。

 男の部屋以外の窓も玄関の戸もお勝手の戸もしっかりと施錠されていて、誰かが入ってきた様子もない。


 だが、その事実が男を震え上がらせる。

 では、ノックして来た者は誰だったのか、ドアノブを揺らした者は誰だったのか、鍵のかかったドアをあけ放ったのは誰だったのかと。


 男は財布とスマホ、それと仕事用のノートパソコンを持ち、家を逃げるように出る。

 家族が返ってくるまで、ネットカフェにでも篭るつもりでだ。




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