ばあさま

ばあさま

 バア様と言う存在がいる。

 バー様かもしれないが、婆様ではない。


 どんな存在と言われると、それは木の根だ。

 老婆のような姿をした木の根。

 とある松の木の根が、座り込んだ老婆のような、そんな形をしている曰く付きの木。


 それが、バア様。

 少なくとも、その村の一部では、そう言われている。


 地主の家の塀に囲まれた一角にバア様は隔離されている。


 バア様はこの村に繁栄をもたらすが、世話をしないと祟りを起こす、そんな存在だ。

 だが、ここにきて色々と問題が起こり始める。


 地主の家を継ぐ者がいないのだ。

 皆、都会へ出てしまい、家を継ぐ者がいない。

 子も孫も都会へと出て行ってしまった。


 バア様を世話する人間が、もう年老いた地主しかいない。

 地主もそのことをよくわかっている。


 また息子や孫を、自分のようにこの土地に縛り付けられるのを、望んでもいない。

 この松の木、バア様に関わったら最後、死ぬまで面倒をみなければならない。

 こんなこと自分の代で終わらす。

 そのつもりで地主はいる。


 そして、少しづつ、少しづつ、地主はバア様の木の世話をしなくなる。


 言い伝えで言われているような祟りは起きなかったが、世話をしなくなると、その村は少しづつ衰退していった。

 今ではもう、その村の者でも、バア様の木のことを知る者も少ない。

 そのことで文句を言うものもいない。


 知る者もまた、もうそんな物に頼る必要はない、もう終わらせるべきだと、そう考えている。

 もう、あのような、忌まわしい木に頼る必要はないのだと。


 その木に、どんな曰くがあったのか、もう正確に知る者はいない。

 現在世話をしている地主でさえ、正確には知らない。

 知らないほうが良い。


 少なくともバア様には、七人の人が生贄が捧げられたという。

 地主が知っているのも、そんな嘘か本当かもわからない、与太話だけだ。


 だから、終わらせるのだ。

 この村と共に。




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