やかんのなかみ
やかんのなかみ
女がお湯を沸かそうとヤカンを手に取る。
軽い。
だが、ヤカンが揺れるとカランカランと音が鳴る。
ヤカンの蓋を開けようとしても、なぜか蓋が空かない。
なにかが引っかかってしまっているようだ。
注ぎ口から水を入れられもなくもないが、中に何か入っているのではそんなことをすることも出来ない。
女がどうにかヤカンの蓋をとろうとしていると、触ってもないのにカランカランとヤカンの中から音がした。
女はそこでゾッとする。
虫でもヤカンの中に入ってしまったかと、そう思ったのだ。
女は耳を澄まし、もう一度ヤカンを振る。
カランカランと乾いた音がする。
振るのを止めれると音も止まる。
気のせいだったかと、女はヤカンを置く。
置いてから少しして、ヤカンから独りでにカランカランと音が鳴った。
今度は聞き間違いではない。
音がする何かが、さわってもいないのに音を発する何かがヤカンの中にいると女は確信する。
とりあえずこのヤカンは捨てることとしても、中に何がいるのかは気になるところだ。
もし虫なら…… と考えると女は居ても立っても居られない。
なので女はヤカンをコンロの上に置く。
そして、コンロの火をつけ、ヤカンを空焚きする。
はじめは何も変化はない。
けど、少しして、カンカンカンと、ヤカンの中で何かが弾けるような音がする。
女はコンロの火を強くする。
そうすると、音が一気に大きくなる。
カンカンカンカンカンカン……
ヤカンの中で何かがはじけまわっている。
どんどん音は大きく激しくなる。
カンカンカンカン! カンカンカンカン! カンカンカンカン!
カンッ!!
最後に大きな音がしてヤカンの蓋が飛び出す。
女は慌ててコンロの火を止める。
そして、ヤカンの中を見る。
中には何もいない。
何か居た形跡もない。
飛び出して外れたヤカンの蓋を見る。
変な所もない。
またヤカンから何かが飛び出た形跡もない。
女は不思議に思いつつもお湯を沸かすことを諦める。
仕方がないので、次の日女は瞬間湯沸かし器を買って帰る。
もちろん、あのヤカンは捨てた。
だが、女はたまに家にいるときにあの音を聞く。
カランカランと、どこからか鳴り響く音を。
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