はらがすいた
はらがすいた
男が寝ていると、不意に男とも女とも取れない異様な声で、腹がすいた、と聞こえてきた。
男が驚いて目を開けると、そこは真っ暗闇だ。
特に何かがいるわけでも気配があるわけでもない。
一応、電気をつけて周りを確認して見たが何かいるわけでもない。
寝ぼけて夢でも見て居たのかと男は考える。
男は電気を消して、再び床に就く。
しばらくすると、またどこからともなく、腹がすいた、と聞こえてくる。
今度は男も目が覚めている。
気のせいや、寝ぼけているわけではない。
男は飛び起きて急いで電気をつけるが、やはり部屋の中には男しかいない。
男は首をかしげる。
男は今度はしばらく電気をつけたまま、布団の上で横になった。
またしばらくしてからだ。
腹がすいた、と聞こえてくる。
たしかにこの部屋の中からだ。
隣の部屋ではない。
たしかにこの部屋から聞こえてくるのだ。
そして、男の腹が鳴る。
グゥゥゥゥゥゥと腹の虫が鳴る。
男は、お前がしゃべったのか? などと、自分の腹を見ながらおどけて見せるが、声の主はわからずじまいだ。
明日も仕事があるのに、と男は考えながらも、仕方がなく即席麺を作り始める。
水を鍋に入れて火にかける、即席麺の袋を開けて、湯が沸くのを待つ。
ふと、切っておいたネギでもなかったかと、男が冷蔵庫を見ている間のことだ。
バリボリバリ、と大きな音がする。
男が驚いて音のほうに目をやると、大きな口で齧られた後のあるまだ茹でられていない麺が、袋の上に置かれていた。
男は慌て始める。
やはり何かがいる。
その何かは腹が減っていて、茹でてない麺にでもかじりつくような奴だということだ。
男が驚いていると、再びどこからともなく、腹がすいた、と聞こえてくる。
男は慌てて、何か食べものを探す。
食パンがあった。
それを袋から出して、テーブルの上に置き、少し離れる。離れようとした時に食パンから目を離した。
男が再び食パンを見た時、食パンにもかじりついたような跡が残り、半分ほどなくなっていた。
食パンについた歯形はとても大きく人間の物には思えなかった。
再び、腹がすいた、と、どこからともなく聞こえてくる。
男は次は自分が噛みつかれるのではないかと、重い慌てて食べものを探す。
冷蔵庫から、残り物をすべて出し、それをテーブルの上に置く。
そして、男はテーブルから、いや、台所から逃げ出す。
男が逃げ出した後の台所から、汚く飲み食いする音が聞こえてくる。
音が静かになった後、男がこっそりと台所を覗くと、テーブルに置いておいたものが、ほとんどなくなっていた。
まだ茹でてない即席麺もなくなっていた。
台所に残っているのは、まだ火にかけたままの鍋の中のお湯くらいだった。
ただそれだけの話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます