いろのないゆめ

いろのないゆめ

 少女は夢を見た。

 色のない白黒の夢だ。


 そこは外国の絵本の中のような、絵画のような世界。でも白黒の色のない世界。

 少女はそんな世界の一室にいる。

 少女はおもちゃの様なテーブルに、やはりおもちゃのような椅子に座っている。

 テーブルの上には白黒のリンゴが一個だけ置かれている。


 少女がそのリンゴを手に取ると、小さな穴が開いていることに気づく。

 その穴から、イモムシが顔を出す。


 イモムシは少女に必死に話しかける。

 タベナイデ、タベナイデ、タベナイデ、と。


 少女は虫食いだから、食べないと答える。

 イモムシは、ナラヨカッタ、と答え、リンゴの穴の中へと消えていった。


 少女はリンゴを手に持ったまま椅子から立ち上がる。

 そして部屋の扉を開けようとする。


 すると、手に持ったリンゴからイモムシが顔を出す。

 ココカラデルト、ユメガサメチャウヨ、とイモムシが忠告をする。

 それを聞いた少女はもう少しこの夢の中に居ようと思った。


 ただ、この色のない夢の世界はこの一室しかない。

 テーブルが一つしかない、椅子が一つしかない。

 穴あきの虫食いリンゴが一つしかない。


 ただそれだけの世界だ。

 つまらない世界だ。

 だけど、なぜか居心地が良い。

 

 少女は椅子に腰かけて、手に持っていたリンゴをテーブルの上に戻した。

 そうすると、イモムシがまた出て来る。

 今度は、イツマデ、イルツモリ? と、イモムシが聞いて来た。

 それに少女が答えないでいると、イモムシは更に言ってくる。

 ナニモナイノニ、イツマデ? と、イモムシが聞いてくる。


 少女は少し迷ったが、もう出ていく、と、答えた。

 そうすると、イモムシは、ソウ、ソレハヨカッタ。マタ、ツラクナッタラオイデ、と言った。

 少女は頷いて、色のない夢の部屋の扉を開けた。


 そして、様々な色の世界へと戻っていった。

 嬉しいことも、辛いこともある、色づいた世界へ。


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