ひるさがり

ひるさがり

 その日の空は、雨が降る訳ではないがどんよりとした分厚い雲に覆われていた。

 昼下がりでも家が薄暗い、窓が開いているのに薄暗く、家なのになぜか不気味と、少女は考えていた。


 築何年かもわからない古い家。

 誰もいない薄暗い家はどこか不気味に少女には思えた。


 電気をつければそうでもないのだが、昼間なので電気をつけるのはおかしい気が少女にはしていた。

 外が晴れていれば、少なくとも今は十分に明るい部屋なのだから。


 けど、今日は暗い、薄暗い。

 窓からも光は入ってこない、ただ薄暗い庭が見えるだけだ。


 不気味とはいえ自分の家だ。

 少女は迷った挙句電気をつけようとする。


 電気のスイッチに手を伸ばそうとしたところで、少女の視界がさらに暗くなる。

 ただでさえ暗いのに、さらに暗くなる。


 なにかの影が少女のいる場所にかかっている。

 少女はそれが気になって振り返る。


 それは窓から覗き込んでいた。

 大きな女だった。

 大きな出窓を上から覗き込むような、そんなふうに大きな、とても大きな女が窓を覗き込んでいた。

 その女が覗き込んでいたから、部屋が影になり更に暗くなっていた。


 その女は綺麗な金の刺繍の入った黒と赤の着物を着ていた。

 その顔はどこか牛を思わせるような、そんな顔をしていた。


 大きな左右の目が別々にぐるりぐるりと動き回り、部屋の中を探っている。

 

 少女は声も出せずにその場に固まり何もできないでいた。

 ただただ息を殺して、その大きな女を見て居た。


 大きな女は少女と目が合うと、ニィ、と気味の悪い笑みを浮かべる。

 そして、窓をコンコンと叩き、アケテアケテ、と抑揚のない声で少女に伝えてきた。


 それでも少女の思考は完全に停止してしまっていたため、驚きもなにもしない。

 ただその光景を呆然と眺めていた。


 少女がまるで反応しないので、その大きな女は窓を覗き込むのをやめて、のしりのしりとゆっくり庭を、薄暗い日の当たらない庭を歩いて行った。


 しばらくして、辺りが明るくなる。

 分厚い雲が去り、日の光が照らし始める。

 少女がいる居間にも光が入る。


 そこでやっと少女は我に返る。

 呼吸を忘れていたかのように、過呼吸などどに呼吸を繰り返す。

 そして、わんわんと泣き始めた。


 少女の親が家に帰ってくるまで少女は泣き続けたという。



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