さくらなみき
さくらなみき
女の帰り道に桜並木の道がある。
隣にはちょっとした川もある。
並木道自体は綺麗に舗装された歩道。
何より規則正しく植えられた桜の木。
桜が咲いたときは綺麗だが、今はもう散ってしまっている。
並木道とはいえ、外灯もあり明るいので、女は帰り道によく使っている。
その日も、その道を仕事帰りに使って、歩き家へと帰路についていた時だ。
すぐ横の川から、バシャンと大きな水音が聞こえた。
そんな大きな魚もいない川なので、女は驚きはした。が、確認もしない。
特にできることもないからだ。
だが、そうも言ってられないことが起きた。
川から何かが這いあがってきた。
一見して毛の長い大型犬だが、オットセイのような上半身を上げるようなポーズを取っている。
女はすぐに並木道を引き返そうとする。
犬にしろなんにせよ、あまり関わり合いにたりたくはない。
そこそこ大きいので、あんな獣に襲われたら一溜りもない。
女が駆け足でその場から誘うとすると、オイッ! オイッ!、と鳴き声のような、呼び声のような声を掛けられる。
もちろん、川から上がってきた存在からだ。
声をかけられた女はつい振り向いてしまう。
そして、振り向いた時点でそこから一歩もう動けなくなる。
ゆっくりと川から上がった犬のような生物が近づいてくる。
ついでに動き方は陸上のオットセイそのままだ。
前脚を出して、それを支えに下半身を引きずるように移動してくる。
それが近づくと辺りに物凄い生臭さが充満し始める。
そして、その獣は、オイッ! オイッ! 〇〇〇はどこだ、〇〇〇はどこだ、と、聞き取り難くはあるが確かに人の言葉でそう聞いてきた。
肝心の〇〇〇の部分だけはどうしても聞き取れない。
まるでノイズでも入っているかのような発音で聞き取ることができない。
女は、泣きながら、知りません、とだけ何度も繰り返した。
そうするとその獣は唸るように大量の息を吐きだした。
とても生臭く生暖かい湿った息を。
そうした後、その獣は、知らぬか、知らぬか、と繰り返し言って、川の中へと戻っていった。
また大きな水音がして、その後外灯に照らされて泳いでいく獣が女からは見えた。
そうしてやっと女は動けるようになった。
その後どうなったか。
それは何も起きない。ただそれだけの話だ。
しいて言えば、女は川などの水辺には近づかなくはなった。
それくらいの話だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます