すずのおと
すずのおと
鈴の音がする。
豪雨の雨音に交じって、チリンチリンと甲高い鈴の音がする。
少年の家は古く縁側がある様な家だった。
少年は縁側から外を、雨が激しくふる外を見ていた。
雨が激しく振る。
天から降り注ぐ水雫が屋根を打ち、アスファルトを打ち、大地を打つ。
その激しい雨はすぐに世界を雨一色へとかえる。
灰色の世界。
水浸しの世界。
普段とは少し異なった世界。
ザァザァと言う雨音以外何も聞こえないかと思えるような世界。
そんな世界に異物がまぐれ込んだようにチリンチリンと鈴の音が鳴り響く。
少年は何気なく音の方に目をやる。
家の生垣の方に、生垣の向こうの通りを、大きな、とても大きな着物を着た女の人が歩いている。
その女の人が手に鈴を持ち、鳴らしている。
その背の高い女の人は確かに人なのだけれども、どこか牛を思い起こすようなそんないでたちをしている。
女が少年に気づき、ゆっくりを笑いかける。
その笑みは口が裂けているかのように口角を上げる。
目が溶けているかのように、細く歪んで笑って見せる。
その時少年は死を覚悟したと言う。
自分は取って喰われる。
そう確信したのだと言う。
それがどいったものか、存在かはわからないが、自分はここで喰われて死ぬのだと、そう思った。
けれど、次の瞬間、分厚かった雲からお天道様が少しだけ顔を見せる。
それに驚いた大きな女は慌てて通りを走るように去っていった。
少年はそれ以来、雨の日に鈴の音が聞こえたらすぐに逃げるようになった。
また雨の景色を眺めることもなくなった。
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