あみど

あみど

 初夏の季節だ。

 寒い日もなくなり、窓を開けていれば過ごしやすい。

 衣替えをし、冬用の布団から夏用の布団にかえる。

 そんな時期の話だ。


 男は少し変わった男だ。

 感情の起伏がほとんどない、そんな男だった。

 男は夜、窓を網戸にして過ごしていた。

 それだけでまだ過ごしやすい。


 ふと男が作業をして気づくと深夜となっていた。

 男はそろそろ寝るか、と寝る為の支度を始める。

 トイレや歯を磨くためいったん自室を離れ、戻ってきた時だ。


 網戸のすぐ向こうに人影を見つける。


 男はゆっくりと歩き、網戸の真ん前に立つ。

 そこにいたのは女だった。


 白黒の、色のない女の上半身だけが闇の中に浮かんでいた。


 男はそれを見て、初めて幽霊を見たと思った。

 それだけだ。

 驚きや慄きはない。


 そして、ふと思ったのだという。

 幽霊は網戸を通れるのかどうか、と。


 男は白黒の幽霊に向かい声をかける。

 おい、網戸を通れるのかどうか、と。


 白黒の幽霊は男の呼びかけに反応しない。

 声は届かないのか、男は考え、今度はスケッチブックに、網戸は通れますか? と書いて白黒の幽霊に見せた。

 だが、幽霊の反応しない。


 反応がないので男は幽霊とコンタクトを取るのをやめて、寝ることにした。

 流石にこの状況で雨戸を閉めるのは幽霊相手にも失礼かと男は思い網戸にしたまま、電気を消し、ベッドの横になった。


 少しすると暗闇に目が慣れてくる。

 夜とは言え、外のほうが明るく思える。


 男はそう思って網戸のほうを見る。

 まだ人影が見える。


 なんなら、その人影自体がうっすらとだが光を発しているようにすら思える。


 それと見た男は、存外、人ではないが誰かに見られながら寝るのは居心地が良くないものだと、思いながら寝た。


 翌朝、開けっ放しの窓を見るとそこにはもう人影はなかった。

 そこで男は網戸を開け閉めする。

 網戸は簡単に開け閉めできる。


 そこで男は結論を得る。

 幽霊は網戸を通れないか、開けることができない、と。


 その事を男は会社で同僚にはなした。

 そうしたら、その同僚は、もう部屋に入って来てたらどうするんだよ、とそう言った。

 男は、それは確かに、と思ったそうだ。

 ただ男はそれ以降不思議な現象を見ることはなかったという。



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