あとち
あとち
跡地がある。
なんの跡地か、そう聞かれると誰も答えられない。
昔からその場所は跡地と言われていて、なぜそこが跡地と言われているか、もうそれすら知る者はいない。
その場所に元々何があったのか、何があって跡地になったのか、どんな曰くがあったのか。
それも昔のことで誰も知らないし、伝わってもいない。
ただその跡地と呼ばれる場所には、誰も入ってはいけないし、何かしてもいけない。
そっと、全てが風化されるまで触ることは許されない、そんな場所だ。
幸い跡地があるのは山ん中の田舎で、しかも今は廃村だ。
そこが再開発されるなど言う話も出ていない。
だから、触れられない、誰も触れられないし、立ち入らなかった。
ただ稀にいる。
廃村巡りなどを趣味にしている人間が。
その趣味自体は悪い事ではないのかもしれない。
ただ廃村と言えど、人の持ち物である場合も多い。
無断で訪れるのはいけないことだ。
それらとは別にあるのだ。
人の理とは別の理がある場所が。
関わっては行けな場所、入ってはいけない場所と言うものは。
男は廃村巡りを趣味にしていた。
廃村へ行き写真を撮り、SNSにアップする。
そんなことを趣味にしていた。
男が行ける範囲で有名どころの廃村は大体もう行ってしまった。
ただ男には一カ所、まだ行っていない候補が一つあった。
母方の田舎、そこに行く途中の山の中腹辺りに、随分前に廃村になった場所があると言う話だ。
恐らくネットなどでもまだ知られていない、そんな廃村だ。
男はお盆にでも、母方の田舎に行った時に、その廃村に行こうと画策していた。
実際にお盆の時期となり、母と父を車に乗せ母方の田舎に行く。
母方の実家で一晩過ごし、男は次の日に一人、車でその廃村を訪れた。
廃村と言う程の大きさはない。
いや、もはや廃村と言っていいかもわからない。
そこは山の中腹の小さな平地に、崩れかけの家が四、五軒あるだけの場所だった。
山の中腹にあるような場所なだけあって、男以前にしばらく人間が訪れた様子はない。
道もなにも草木に覆われた、ほぼ自然に返ってしまっているような場所だった。
流石に自然に返りすぎている。
人工物の痕跡がもうほとんど残っていない。
男は残念に思いながらも、それでもせっかく来たのだからと、ほぼ藪と化しているを進む。
それはそこにあった。
ここを廃村と言うのであれば、その中央。村の中心、そんなような場所だ。
そこに大きな岩が祀られるように置かれている。
朽ちかけではあるがしめ縄もその岩にかけられている。
その岩の周りだけ、草木が一本も生えていない。
剥き出しの土が、少しぬかるんだ土が見えている。
異様なものを感じつつ、男はその剥き出しの土に足を踏み出した。
その瞬間だ。
男はものすごい寒気のようなものを感じる。
今はお盆の時期だ。
真夏もいいところだ。
暑いどころの話ではないのにも、身の震えが止まらないほどの寒気を男は感じた。
男は直感でここは立ち入ってはダメな場所だと理解し、すぐに引き返した。
男は嫌な予感を感じ、この廃村のことはどのSNSにも触れずにいた。
男がその廃村を訪れてちょうど三ヶ月後のことだ。
男は仕事中に急に吐血し倒れ、入院しそのまま亡くなったそうだ。
男が亡くなる前、白い老人が訪ねて来る夢を何度も見ていたのだと言う。
立ち入ってはいけない場所、触れてはならないもの、それは存在する。
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