おおいかぶさる
おおいかぶさる
男は一人暮らしだ。
寝床はベッドではなく布団だ。
会社から帰ってきたら動画サイトで安酒を飲みながら動画を見て寝る。
そんな日常を送っていた。
その日も、深夜十二時ごろに男は床に就く。
まだ春先だと言うのに部屋に蚊がいたので、男は布団の中に潜り込んで寝ていた。
それ程暑苦しいこともない。
むしろ、この時期布団の中まで潜り込むと暖かくて寝やすい、男はそんなことを思っていた。
その日もすぐに意識はなくなり眠りに着く。
ふと男は布団の中で目を覚ます。
部屋の中になにか違和感を、布団の中に居ながらにして気づく。
すぐに男は気づく、部屋の中に誰かいると。
男はすぐに泥棒かと考えるが、この部屋に盗めるような金目のものはない。
気づかぬふりをしていれば、諦めて帰ってくれるのではないか、下手に起きていると気づかれて、殺されでもしたら馬鹿らしい、そう考えた。
実際、この部屋に盗まれて困る物と言ったら、スマホくらいの物だ。
そのスマホも起きたとき踏んで壊さないようにいつも枕の下に置いてある。
流石にそんなところまでは探しはしないだろうと、男は思っていた。
ただ変だ。
どうも足音が泥棒と言った感じではない。
忍び足をする感じではない。
酔っ払いが何とか歩く、そう、千鳥足のようなそんな歩き方だ。
酔っ払いが間違って部屋に上がり込んで来たのかと思ったが、流石に玄関のドアの鍵は閉めているし、玄関のドアが開けばそれだけで男は目を覚ます自信はある。
なにせ部屋の違和感だけで起きれるほど、男は神経質なのだから。
男がどうするか迷っていると、足音の主が男の布団の近くに寄って来た。
迷いすぎたと男は思い今からでも起きようとするが、今度は体が動かない。
指一つ動かせない。
今、男に出来ることは布団の中で自分のことを気づかないでくれと願う事と小さく震えることくらいだ。
足音の主は布団の上にも無造作に上がる込んでくる。
器用に男の寝ている場所を避けて、布団の上を歩く。
男を跨ぐようにそれは立つ。
そして、男の顔をの真横に何かがドサッと音をさせて布団を沈めさせる。
男には布団の中だったが、それが手をついたのだと想像できた。
なぜなら、布団一枚を通して、何者かの息遣いを感じることが出来たからだ。
男の顔を挟むようにもう一度ドサと音がして、布団が沈む。
恐らくは両手をついたのだろう。
男は何者かに布団の上から覆いかぶさられているような状態だ。
男は性別を女と勘違いされているのではないか、そんなことを考えたが、布団の上で覆いかぶさっているものは、それ以降何かしてくるわけではない。
ただ男の様子を伺うように、布団越しにその息遣いだけが聞こえてくる。
男の体は相変わらず全く動かない。
男は恐怖に身を震わせる。
そうしていると男の顔に布団がのしかかる。
男にのしかかっているものが、顔を押し付けているのだと、理解するまでに少し時間を要した。
男の顔に布団を介してだが、のしかかってくる者の顔が当たる。
それは奇妙だった。
それが息をしているのは感じられる。
だから、男の顔の真上にあるのが何者かの顔であることは間違いがない。
だが、押し付けられたそれは平たいのだ。
凹凸が何一つ感じられない。
ただ平たいお盆か本か、そんなものが布団を挟んで顔の上に乗っている、そんな感覚なのだ。
なのに布団越しに覆いかぶさっている存在の息がかかる。
布団を通して、覆いかぶさっている何者かの息が、生臭い息が伝わってくる。
男が恐怖で気が狂いそうになっていると、不意に顔にかかっていた圧が消え、布団を沈ませていた物も消えた。
そして、千鳥足のような足音をさせて、それは男から去っていってた。
男は一度落ち着いてから、体が動くようになっていることを確認し、起きてすぐに部屋の明かりをつけた。
そこは普通の男の部屋だ。
荒らされた後もない。
何者がいた気配もない。
時刻を見るとちょうど深夜の三時になった時だった。
男がこんなことを体験したのは、これが初めてであり以降こんなことは体験したことはなかったと言う。
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