あけるて
あけるて
女は地方より上京してきた大学生だ。
ワンルームの部屋を借り、そこで初めての一人暮らしを始めた。
慣れないながらも楽しい新生活だった。
少し時間がたち、夏のある日。
女は夜に雨戸は閉めつつも網戸にして、涼んでいた。
エアコンを付かなかったのは節約のためだ。
思いのほか先月の電気代が高かった為だ。
女は暑いと思いつつも万年布団になりつつある布団に寝っ転がり暇を持て余していた。
寝るにはまだ早い時間。
けれど、お金もなくやることがない。
女は布団の上に寝っ転がり、天井を見ていた。ただ見ていた。
しばらくすると、網戸から妙に生暖かい風が入ってくる。
なので女そっちの方を向く。
そうすると白い靄のような物が、網戸付近に漂っている。
部屋の真下で誰かがタバコか花火でもやっているのか、最初は女もそう思った。
ただタバコの臭いも、花火の火薬の臭いもしない。
どちらかと言うと少し生臭い嫌な臭いがする。
それでも女は布団の上に寝っ転がったまま動かない。
けど、その煙のような白い靄は少し気になる。
女はその靄をしばらく見ていた。
しばらくするとその靄は集まりまとまりだした。
まるで意志を持ったかのように。
そして、それは手の形になった。
人の手の形だ。
うっすらと半透明の白い靄のような塊の手だ。
その手はすーと音もなく伸びた。
それでも女は何をするでもなくただその手を見続けた。
不思議な物を見るかのように、驚くでもなく、怖がるでもなく、ただ見続けた。
それは部屋の入口である引き戸のほうまで伸びた。
女はどうなるのか知りたくて、その手を、見えにくい煙のような白い手を見続けた。
なんとその手は引き戸を音もなくゆっくりと開けた。
そして、伸びる。まっすぐに玄関めがけて伸びる。
流石に女も布団の上から起きて、その手がどこへ行くのかを見守る。
その白い半透明の手は玄関の扉まで延び、その内鍵に手を伸ばした。
そして、その手はゆっくりと鍵を開ける。
女も流石に焦り、鍵を開けさせないために玄関に走る。
しかし、ガチャン、と言う音と共に鍵が開かれる。
そうすると玄関の扉が勢いよく開かれる。
が、ガコンと大きな音を立てて扉は半開きになって止まる。
ドアガードのおかげだ。
それのおかげで扉が完全に開くことはない。
半開きになった扉の隙間から、大きな白い顔が覗き込む。
子供の背丈くらいある様な白い顔で、目が異様に血走っている。
それが半笑いで覗き込んで来た。
半開きの隙間から無理にでも入り込もうとするように、隙間にその大きな顔を押し付けて来る。
女は何とか玄関までたどり着き、玄関の扉を無理やり閉め、再び鍵をする。
すぐに部屋に戻り、部屋の今は網戸になっている窓も閉めた。
その頃には煙のような白く長く伸びた手も消えていた。
女はそれ以降、どんなに暑くても夜は戸締りはしっかりとするようになった。
引っ越しできるお金はない。
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