のぞきみ
のぞきみ
二階の東側の窓、その雨戸の立て付けが悪い。
ちゃんとしまらず鍵も掛からない。
ただ一階でもないし小さい窓なのでそれほど気にも留めない。
そんな窓がある家に男は住んでいる。
ある時、夜、男はその窓の雨戸が少し開いていることに気づく。
立て付けが悪いから仕方がない、そう思いつつも少し気になる。
雨戸と雨戸、閉まりきらない、その間の闇が気になる。
真っ暗な、何もない、その闇が気になるのだ。
そんなことが数度あった。
その日も雨戸が閉まりきっていなかった。
雨戸が絞められているということは、もちろん夜だ。
雨戸と雨戸の間、ほんの一センチほど。開いている。
その闇が男は気になった。
その日は妙に気になった。
何か視線のようなものを感じたからだ。
気になった男は目をよく凝らす。
そうすると見つけたのだ。
一センチの闇の中に、こちらを伺う眼を。
男は泥棒かと思い、近寄るとその眼は闇の中へと消えていく。
ガラス窓を勢いよく開け、立て付けの悪い雨戸を何とか開けて外を見る。
窓の外は闇だ。それしかない。
そして思い出す。
ここは二階で、窓の下には何もない。
つかまる柵もなければ、ぶら下がれる屋根も、何もないのだと。
では、あの眼は何かと男は考える。
動物にしても窓の外は何もない。
猿ならあるいは、とも考えるが男が住んでいる場所に猿などいない。
立て付けの悪い雨戸を再度閉めて、男は考える。
この家には自分しか住んでないし、泥棒に盗まれる様なものもない。
一体何がのぞみで覗いていたんだろうと。
そもそも、人間が覗けるような場所ではないのは確かだ。
では、あの眼はなんだったのだろう、と男は考える。
答えは出ない。
後日また夜に、あの窓から視線を感じる。
隙間に目を凝らすと、雨戸の間の闇の中にやはり眼が見えた。
一度見つけてしまうと、次からは簡単に見つけることができた。
男はじっとその眼を見る。
その眼も男の視線に気づき、男を見返す。
男はじっくりと観察する。
それは人間の眼に思える。
目を見開き、ぎょろりとした眼でじっと男を見ている。
男が「何者だ!」と声を掛けると、その眼は音もなく闇の中に消えていった。
気味が悪いと思った男は、その翌日から目張りテープで雨戸と雨戸の隙間を塞ぐようにした。
ついでにこの家を建てたときの工務店に連絡して、雨戸をの修理を依頼した。
ただ大工の方が立て込んでいてしばらくかかると言う話だった。
やっと都合がついたので修理の日を工務店から伝えられたちょうどその日、内側から貼り付けたはずの目張りテープが一部剥がされていた。
そして、雨戸と雨戸の間から眼が見ていた。
男が「何が目的だ!」と怒鳴ると低いが女の声で「見てるだけ」と返って来た。
とりあえず返事は返ってきたが、男は相手が生きたまっとうな人間ではないと言うのはすぐにわかる。
男は色々考えたが「その雨戸ももう修理する、覗けないぞ」と伝えた。
そうすると「残念」と言葉を残して眼は闇の中へ消えていった。
それ以来、視線も感じなくなった。
それはそれとして、雨戸の立て付けはちゃんと修理してもらった。
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