みみのなか

みみのなか

 いつのころからだろうか?

 少年が気づくと、なにかささやき声が聞こえる様になっていた。

 大概、悪いことを唆すようにささやくので少年はその声に耳を貸さなかった。


 それでもヒソヒソと何かが聞こえてくる。

 友達の消しゴムを盗めとか、好きな子の色鉛筆を折れ、とか、そんなことから、学校で飼っている金魚を殺せ、なんていうものまで、様々な悪いことを唆すようにささやく声だ。


 どこから聞こえてくるんか少年にはわからなかったし、少年以外の友人らにはその声は聞こえてなかった。

 いつ、どんな時にも関わらず、その声は少年にささやき続けた。


 なので、少年は百円ショップで耳栓を買った。

 これで声も聞こえなくなるだろうと。

 少年は耳栓をする。

 そうすると声がささやく。


 むだむだ、と。


 そこで少年は気づく。

 この声は耳の外から聞こえて来るのではなく、耳の中から聞こえてくるのだと。

 少年はなにかそのささやき声が聞こえると、持っていた釘の頭の方を耳に入れ、ガサゴソと弄ってやる。

 そうするとささやき声が止む。

 ただそうするとそのささやき声は次第に少年を罵倒するようになった。


 耳に釘を入れるようになって少年は自分の耳に何かとっかかりのようなものがあることに気づいた。

 その部分だけ、ガリガリと他の場所と違う感触だった。

 しかも、その場所を釘の頭で擦るとすぐに声が止む。

 それがこの声の原因なんだと少年は確信した。

 少年は決心し、友人にピンセットを渡し、耳の中を調べてくれと頼み込んだ。


 友人はすぐに声を上げる。

 大きな、赤黒いかさぶたが耳の中にあると。

 少年は友人にそれを取ってくれと頼む。


 友人がそれをピンセットで摘まんで引っ張る。

 少年の耳に痛みが走るが、無理にでもとってと友人に頼む。


 ブチッ、と言う音がして少年の耳の中に痛みと、心地よさが広がる。

 友人がとったそれはかさぶたのような物だった。

 ただそれには人の顔に見える模様がついている。

 特に口の部分は大きく、動いた後の皴のようなものまである。

 さらに、無理やり剥がしたせいか、血までついている。

 少年はそれをテッシュで包み、走って燃えている学校の焼却炉の中へと投げ込んだ。

 

 ギャァァァという断末魔のような悲鳴が聞こえる。


 ただその声も少年にしか聞こえなかった。

 けれど、もう少年が何か何者かにささやかれる様なことはなくなった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る