へいよりたかい
へいよりたかい
少年の住む町は古い建物がまだたくさん残っている、そんな地域だ。
少年が通学路にしている一つの道に、白く高い塀に囲われた、ただまっすぐで長い一本道がある。
そこには街灯もない。
なぜならそこは私道だからだ。
土地の持ち主の好意により、道として開放されている場所だからだ。
だから街灯もない。
日が落ちると真っ暗にはなるが、道はまっすぐなのでそれほど困ることはない。
それでも真っ暗な一本道と言うのはとても威圧感がある。
その道を取り囲む塀も高さ二メートルはある。
それがまた威圧感に拍車をかけている。
少年も日が落ちてからはこの道を使わない。
だが、非常に近道にはなる。
そんな道があった。
その日、少年がその道に来た時、夕日が差し込むような時間だった。
言ってしまえば逢魔が時。大禍時、夕方の薄暗くなる時間、昼と夜との境目、魔物と遭遇する、そんな時間だ。
ただそんなことを少年は知らない。
まだ日が差している時間なので、少年は塀に囲まれたその長く威圧感のある道を行くことにした。
その一本道に入って三分の一くらいに差し掛かった時だ。
道の向こうから人がやって来た。
日傘をさした女。
夕焼けに照らされて服の色すらよくわからないが、日傘から服、靴まで同じ色の女だ。
とても、とても背の高い女が歩いて来た。
おかしなところはない。
その女が塀よりも背が高いことを除けばだが。
ただ非現実的な背の高さと言うわけでもない。
少年も驚きはしたものの、背の高い女の人もいるもんだな、くらいにしか思わなかった。
顔も日傘で隠れていてよく見えない。
やがて少年とその背の高い女がすれ違う。
特に声を掛けられるわけでもない。
少年がその女を下から見上げたわけでもない。
ただすれ違った。
それでも少年からすれば少なくとも五十センチ以上、下手をしたら一メートル近くも背の高い相手だ。
少年も気になりはした。
すれ違った後、しばらくしてから少年は振り返る。
少し遠くにゆっくりとその背の高い女は歩いている。
後ろから見ると妙に手が長く感じる。
ワンピースの服なのでよくわからないが、腰の位置が妙に高く脚もとても長そうだった。
そして、高い塀よりも頭一つ分ほど背が高い。
もしかしたら世界一背の高い女なのでは、と少年はそんなことを思いつつ、その後姿を見ていた。
不意にゆっくりと歩いていた背の高い女が立ち止まる。
そして、振り返り少年の方を見る。
その為に、少年を見る為に日傘を上げる。
日傘によって隠されていた顔が露わになる。
大きな赤い口紅をさした口。
それしかなかった。
口から上、全てか欠けていた。
目も鼻も頭も髪の毛もない。
口から上が何もなかった。
少年は驚いで駆け出す。
後ろも振り返らずに駆け出す。
理解が何も及ばずただただ恐怖に駆られ走り出していた。
すぐ大通りに出る。
そこで走って来た道を振り返る。
女が追ってきている様子はない。
少年は安堵した。ただただ安堵した。
それ以来、少年は日が落ちる前でもその一本道を避ける様になった。
ただそれだけの話だ。
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