あまごいにんぎょう
あまごいにんぎょう
祖母が大事にしている人形がある。
日本人形の類だけれども綺麗な人形ではなく、古く汚れくすんだ日本人形だ。
しかも、一年で梅雨の時期だけ飾るというちょっと変わった人形だ。
名のある人形師が懇切丁寧に、というよりは素人が頑張って作った、そんな出来の人形だ。
孫が祖母に、なんでこの人形を飾っているのかと聞くと、それは「雨乞い人形」だから、という答えが返ってきた。
なんでも雨乞いの際、生贄の代わりにこさえられた人形で、雨乞いをして雨が降れば、その人形を燃やして神様に捧げ、雨が降らなければこうやって飾って供養しなければならない、との話だ。
なので梅雨の時期にこうやって飾ってあげているとの話だ。
ただ出来が悪く非常に不気味な人形だ。
髪の毛はひどくボサボサで所々抜け落ちてすらいる。
ガラスのケースに入れられて飾られてはいるものの、すでに朽ちかけにすら見える。
祖母はそんな人形を毎年、梅雨の時期だけ押し入れから出し、飾っている。
そんなある日、梅雨の時期、その人形が泣いていた。
目からスッと一筋の涙を流して泣いていた。
もちろん声を出して泣いていたわけではない。
ただ一筋の涙を人形が流したのだ。
それを見た孫はすぐに祖母にそのことを伝える。
そうすると祖母はニッコリと笑う。
そして、次の晴れの日を待って、その人形を庭で焼いた。
やっとお役目が終わったのだと。祖母は感謝の言葉と念仏を唱えながら人形を丁寧に焼いた。
孫もこれであの不気味な人形を見ないで済む、と考えていた。
だが、次の日、雨乞い人形はまた飾られていた。
昨日燃やした雨乞い人形とは別の人形だ。
その事を祖母に聞くと、祖母は少し困った顔をして、後ね、五体もいるの、とだけ言った。
なんでも一体ずつしか飾ってはいけないらしく、涙を流すまで梅雨の時期は飾ってあげないといけないらしい。
そうしないと大変なことになるとか、ならないとか。
それからしばらくして祖母は死んだ。
孫が成人し結婚し、両親から雨乞い人形を受け継いだ時、雨乞い人形は三つまで減っていた。
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