ひきだしのなか

ひきだしのなか

 少女は大学に入るための受験勉強をしていた。

 夜遅くまで。

 

 もう夜も遅いので、音楽もかけず、ただ静まり返った部屋に、シャーペンが立てる筆記の音だけが響いていた。

 だからだろうか、少女はすぐにその音に気が付いた。


 引き出しの中から、音がする。

 ガサゴソと、音がする。


 少女は眉をひそめる。

 恐らく虫がいる。


 もしかしたら黒いあの嫌な虫かもしれない。


 見たくはないが、このままにもしておけない。

 少女は先に殺虫スプレーを取りに向かう。


 脱衣所から殺虫スプレーを持ってきて手に構える。

 あまり机の中の物にかけたくはないが、相手が相手なので仕方がない。


 少女はゆっくりと机の引き出しを開ける。


 とりあえず動くものはない。

 机の中にあるのは…… ちょっとしたアクセサリーの類、カラフルな文具、それとまだ封を切ってないお菓子。

 そんな物が少し入っているだけだった。


 少女は目を凝らす。

 動くものはないかと。

 けども、そんなものはない。


 そもそも物が少ない。

 綺麗に整頓されているわけではないが、物が少ないので、一目で何もいないことがわかる。

 念のため、お菓子の袋をどかしてみるが、何もいない。


 引き出しと言っても、引き出し自体を金属のレールでぶら下げるタイプの机なので、机の奥があるわけでもない。

 となると、既に逃げだしてしまったか、と少女は後悔する。


 もし、あの嫌な虫を部屋に解き放ってしまっていたら、寝るに寝れない。


 少女は机の周りも見て見るが、それらしきものは見当たらない。

 仕方がないので、少女は渋々勉強を再開する。

 念のため、殺虫スプレーは机の下の、すぐ手に届く場所に置いておく。


 勉強を再開し、しばらくするとまた机の中から、ガサゴソと音がする。

 少女はやっぱり何かいるんだ、と思い、殺虫スプレーを手に取り机を開ける。

 けど、何もない。

 今度は引き出しの中の物を全部取り出して見るが、やっぱり何もいない。

 仕方なく、また勉強を再開させる。

 そうすると、また音が鳴り始める。


 そこで少女は少し様子を見る。

 椅子を引き机から離れて、殺虫スプレーを手に持ち、じっと引き出しを見る。

 ガサゴソと音がする。

 引き出し自体も少しだけ揺れる。

 少女はそれを見守る。


 しばらく見ていると、引き出しが少しだけ動く。

 少しづつ引き出しが動き、引き出しがひとりでに開いていく。

 大体一センチ程度開いた時だろうか、引き出しから指が出て来た。

 人間の指で、やけに白い指だった。

 それが引き出しから這い出てこようとしていた。


 少女はそれを見た瞬間パニックになり、その指めがけて殺虫スプレーを噴射させる。

 その瞬間指は見えなくなる。


 しばらく少女は興奮していたが、その後、何か起きることはなかったし、それ以降引き出しから音が聞こえてくることもなくなった。

 ついでにだが、引き出しに入っていたお菓子は少女の父親へと贈られた。



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