きゅうじつ
きゅうじつ
男が起きるともう夕方だった。
もう日が暮れ始めている時間だった。
雨戸をあけると西日が既に差し込んできていた。
起きた時間を見て男は絶望する。
休日のほとんどを寝て過ごしてしまったことに。
最近忙しかったから仕方がない、そう思ってあきらめることにして窓の外を見る。
西日と言えど妙に赤い。
オレンジ色や金色ではない。
赤い、本当に赤いそんな西日が開けた窓から差し込んでいる。
男は窓から少し身を乗り出して外の景色を見る。
赤く染まった外が見える。
赤と黒のコントラストしかない、そんな世界が見てた。
美しい、とは思うが、どちらかと言うと、哀愁が漂う、いや、その時はなにか不気味さのほうが強かった。
音もなく赤と黒の景色は、非常に不気味に男には思えた。
そんな中、影が見える。
影が伸びてくるのが見える。
沈み行く太陽に追われるように影が、何かの影が伸びていく。
それはまっすぐに男のいる窓を目指しているように、何かの影は伸びていていた。
少しの間、男はその伸びる影を見ていたが、おかしいことに気づく。
影なら日が当たって伸びるはずなのだが、それは明らかに、他の影とは違う方向に、こちらを、男にいる窓を目指して伸びてきている。
男は慌てて部屋に戻り、開けたばかりの雨戸と窓を閉め鍵をかける。
しばらくして金属製の雨戸をガシャンガシャンと叩くような、揺さぶるような、そんな音が聞こえる。
その直後に、玄関のチャイムが鳴る。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン…… と一定のリズムで鳴り続ける。
男は恐る恐る、玄関のドアまで行き、覗き窓を見る。
そこには黒い影が、逆光なのか、黒い影しか見えないが、輪郭だけで人影とはわかるような、そんな影のようなものが立っていた。
男はぞっとする。
窓は北側にある。
そして、男が住んでいる部屋の玄関は南側にある。
少なくともこの時間帯に、姿が黒い影しか見えないほどの逆光になるわけがないことを。
男は息を殺して、ドアにカギとチェーンがしっかりかかっていることを確認してから、玄関からゆっくりと後ずさりしながら離れる。
自室に戻ったところで、チャイムが止まり、ガチャガチャガチャガチャとドアを乱暴に捻る音が聞こえる。
けど、すぐにドアが開かないことで諦めたのか静かになる。
何事もなかったかのように静かになる。
男はしばらくじっとしてから、再びドアの覗き窓を見る。
もう完全に日が暮れているのか、廊下の蛍光灯に照らされたいつも通りの風景が見えるだけだった。
男は考えるのをやめて、二度寝した。
これはすべて夢だったと思うように、二度寝をした。
次に目を覚ました時は朝で、休日は終わっていた。
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