よるのよりみち
よるのよりみち
少年は中学生だ。
少年は塾に通っている。
塾に行くと帰りは大体九時頃だ。
勉強に辟易している少年はよく塾の帰りに遠回りして家に帰る。
家に帰っても、勉強、勉強、勉強、と言われるからだ。
そこまでして良い高校に行かなければならない理由を少年は理解していない。
だから、嫌々勉強をしているだけだ。
それは塾の帰りに遠回りをして出来る限り遅く家に帰りたくなる理由になるものだった。
自転車で通っていたため、少年はそれほど危険を感じてはいなかったし、昼間とは違う人のいない道を色々と見て回るのも少年は楽しかった。
次第に寄り道も遠くまで行くようになる。
遠くの公園まで少年が足を延ばしたときだ。
ふと、公園に植えられた木に旗のようなものが引っかかっている。
その旗のような布が少年の目についた途端、少年は自転車を漕ぐのを辞めた。
その布がどうしても気になって仕方がない。
ただのボロボロの布切れで価値があるようには見えないのだが、どうしても少年はその布に魅了されてしまう。
木の少し高い位置にそれは引っかかってはいるが、木にしがみ付き手を伸ばせば届く位置にある。
少年自身も何をやっているんだろう、そう思うのだが、どうしてもボロボロの布切れが気になる。
それが異性の下着に見えたのであれば、まだわからなくもない話なのだがそう言ったこともない。
ただのボロボロの、一枚の布切れなのだ。
だが、どうしても少年はそれが気になって仕方がない。
その布切れに呼ばれるように少年は行動する。
薄汚れた汚い布。
なのに、どういう訳か少年を魅了して止まない。
少年は自転車から降り、公園の敷地内に入り込む。
公園と言っても、腰にも満たない鉄製の柵があるだけなので入り込むのも容易だ。
少年はその布切れが引っかかっている木の根元まで来て、その布を見上げる。
近くで見ても本当にボロボロの汚れた布切れだ。
けど、少年はその布がどうしても欲しくなってしまい、木によりかかり手を伸ばす。
その瞬間、辺りがざわめき、
「ウォォォォッォォォォォォォォォッォォォォォッォォォオォォォ」
と、風のような、唸り声のような、そんなものが辺りから聞こえてくる。
それと同時に風が吹き、辺りの木々が急に揺れ出す。
少年は怖くなり、走って自転車のところまで戻る。
そして、急いで自転車を漕ぎだしその場を離れる。
その手にはしっかりとボロボロの布切れが握られている。
少年がその場を離れ、明るい街灯の下まで来て、初めてその布切れを見る。
それは本当にただの布切れだった。
ただ茶色い染みがいくつもついただけの、ボロボロの布切れだった。
少年はそれを満足そうに大事にしまい家に持って帰る。
そして、鍵の付いた机の引き出しにしまっておくのだが、いつの間にかにその布切れは消えていた。
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