第4話 告白

 下駄箱の中へ置いた手紙。それは多分、ラブレターのようなものかも知れない。なぜなら、烏兎うとは授業の間中、そわそわと落ち着きない様子だったからだ。そして時折、ニヤリと頬を緩めては笑みを浮かべる始末。周りからして見れば、さぞかし奇妙な光景だったに違いない。


 そんな浮かれた状況の中、一日の授業も気がつけば夕刻時。気持ち高ぶっていたせいか、時が経つのは早いもの。担任が最後の伝達を済ませ、終礼を終えた瞬間――。


 席に姿はなく、すでに教室の外。慌てて何処かへ向かっていた。その姿から窺えたのは、トイレを我慢していたような急ぎ振り。足早に中庭を抜け着いた先は、校門ではなく校舎裏。


 状況から判断できることは、言うまでもなく帰宅ではない。となれば、一連の流れから予測すると、手紙に関する一件のみ。おそらく、伝えたい想いがあるから呼び出した。こう考えればある程度の事情は察しが付く。



 そんな想いを抱えながら、やがて烏兎うとは校舎裏にたどり着く。ところが、その場所に相手の女性はまだ来ていない。という事は、もしかして……。と、このように思われたが、それほど悪い雰囲気でもなさそうだ。


のぞみちゃん来てくれるかなぁ……?」


 どうやら待ち合わせ時間には、少しばかり早い様子。とはいえ、待てど暮らせど誰一人としてやってこない。これにより、不安や焦燥感に駆られる烏兎うと。気持ちを静めるために、周辺の景色を眺めようとする。


 そこに映し出された光景は、なんとも美しい樹々が連なる桜並木。――かと思いきや、全ての花びらが舞い散り過ぎ去ったあと。けれども、一つだけ不思議な風情を醸し出す桜が咲いていた。


 なんとも不可解な情景。それは風に吹かれながらも、一片ひとひらの花弁が儚くも枝に寄り添う姿。まるで、烏兎うとを励ますかのように感じ取れる。


 ――その時だった。


「ごめんね、烏兎うとくん。先生に呼ばれていたから、遅くなっちゃった」


 烏兎うとの想い、それとも桜の想い。どちらかの願いが届いたような光景。のぞみが現れた途端、一片ひとひらの花びらは風に乗り空を優雅に舞い散った……。


「いや、僕もいま来たとこだから、全然大丈夫だよ」

「そっかぁ、じゃあ良かった」


「それよりも、突然呼び出してごめんね」

「そんなことないよ。少し驚いてはいるけどね」


「ということは…………僕が渡した手紙を読んでくれたということ?」

「うん。烏兎うとくんの気持ち、とても嬉しかったよ」


 どうやら話の内容からして、二人は知り合いなのかも知れない。というのも、烏兎うとのぞみは同じ中学の卒業生。今年の新学期からも、一緒の桜川高校に通っていた。しかしながら、同じ学校というだけで、親密になれるのも不思議な状況。


 このように思われるが、それもそのはず以前から二人の家は隣同士。といっても、古くからではなく数年前に烏兎うとの家族がから移り住んだ。


 そんな事情もあってか、二人は小学生の頃から顔なじみ。一緒に遊ぶこともよくあり、とくに仲が良かったといえる。


 これにより烏兎うとは次第に心を惹かれ、最終的に現在のような場面に至る。いずれにせよ、手紙を受け取った反応からは、良い雰囲気が窺えた。


「えっ。それって、まさか……?」

「その……何ていえばいいんだろうね。こういうの私も初めてだから」


 手紙の返事を受け取る烏兎うとは、好意とも取れる言葉に唖然と佇む。この様子を上目遣いで見つめるのぞみは、双方の指先を絡め顔を赤らめた…………。

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